第二章「突然の生放送」(8)
「その想い、届くといいね」
「……」
届くだろうか。
この一年間、夢の中にだって現れなかった彼女に。
死んだ後も、魂はあるのだろうか。
もしもあるのなら、今、彼女の魂はどこにいるのだろうか。
「あたしは、きっと届くと思う」
少女は印象的な茶色の瞳で、彼を見つめた。
「ラジオは、心と心をつなぐメディアだから。そしてこの番組は、その最たるものなんだから」
「心と心を……」
ふいに、胸に熱いものが込み上げてきた。
花音ともう一度話がしたい、と心の底から思った。
目に涙が滲んだ。
――花音ともう一度会うためだったら、俺は何だってするのに。
だけどそれが決して叶(かな)わぬ望みだということを、昇太はこの一年で思い知っていたのだった。
『そろそろ曲かけようか』
TB(トーク・バック)で、ディレクターの陽一がふたりの会話を短く遮った。
トーク・バックというのは、パーソナリティーの耳だけに聞こえるスタジオの連絡システムで、オンエアでは聞こえないようになっている。
「んじゃサケ茶漬けさん、音楽行こっか!」
さっきまでのしみじみとした雰囲気とは打って変わって、アンジェリカが明るいトーンで言った。
「曲紹介、どうぞよろしく!」
「え……あ、はい!」
昇太は慌てて両目を袖口で拭き、机上のキューシートを手繰り寄せた。でも急に振られたので、とっさにどこを見ていいのか分からない。
「次の曲はここだよ、ここ」
アンジェリカが隣から、ボールペンの先で教えてくれた。
「あ、この曲……佐賀県出身の、わ、鷲尾伶菜(わしおれいな)さんで『Batons〜キミの夢が叶う時〜』です……」
「SAGA2024のイメージソングで、超おなじみだよね。作詞は326(ミツル)さんで、作曲は千綿偉功(ちわたひでのり)さん。フルコーラスでお送りして、その後はコマーシャルです。それではどうぞ!」
SAGA2024というのは、去年までの国体から変わる新しいスポーツ大会、「国民スポーツ大会」「全国障害者スポーツ大会」の、第一回大会の名称である。つまり新しいスポーツの祭典が佐賀から始まるということで、佐賀県は今、空前のスポーツブームとなっているのだ。