24時間ネオンが灯る百軒店(ひゃっけんだな)の路地裏にひっそりとある居酒屋『渋谷半地下酒場』。店内は屋台のようなにぎやかさで、手作りの焼売(シューマイ)や、自家製の漬け酒などが味わえる。 渋谷で暮らす人や、この界隈で働く人たちの“溜まり場”だけに、ここにいるだけでリアルな渋谷のカルチャーが体感できるネオ居酒屋だ。

高知の『安兵衛』から着想を得た渋谷の秘密基地

2021年にオープンした『渋谷半地下酒場』は、ビルの駐車場だった半地下スペースを利用した居酒屋だ。百軒店のメイン通りからホテルとビルの間をすり抜け、細い路地を入っていったところに突如、店舗が現れる。

看板の雰囲気や提灯が、かなりナゾめいた感じだ。
看板の雰囲気や提灯が、かなりナゾめいた感じだ。

窓から店の中をのぞいてみると、カラフルな丸いパイプ椅子が並んでいてアジアの屋台みたい。楽しそうな雰囲気に惹かれて店に入り、渋谷で数軒の居酒屋を経営するオーナーの今井洋さんに話を聞いた。

「百軒店にある姉妹店「うどん酒場 萬斎」(現在は『酒処ニュー 萬斎』)が軌道に乗ったので次を考えていましたが、ちょうどその頃は日本中がコロナで疲弊していました。この先、居酒屋はダメだろうと言われていた時でしたが、いや、“今こそ勝機”だと。不動産屋さんからいくつか紹介してもらった物件のひとつが駐車場にある半地下の物件でした」

屋台のにぎやかな雰囲気がある店内。床には駐車場だった頃の白いラインがうっすら残っている。
屋台のにぎやかな雰囲気がある店内。床には駐車場だった頃の白いラインがうっすら残っている。

物件を決める前に、たまたま高知の有名な屋台餃子店『安兵衛』に行っていた今井さんはひらめいた。「『安兵衛』と同じように駐車場で屋台のような店を開くのは面白いかも。あの駐車場の半地下物件で、焼売の店を開こう」と。かつて同じアパレル業界で働き、このアイデアに賛同してくれた友人の添田慎也さんとともに合同会社今添商店を設立。こうして『渋谷半地下酒場』をオープンするに至った。

2021年は外出自粛が長引き、夜の渋谷から人影が少なくなっていた時期だった。多感な頃から渋谷で遊んでいた今井さんにとってはただならぬ思いがあったのだろう。「イメージは渋谷パルコの『カオスキッチン』みたいな感じで、渋谷に人が集まる面白い店を作ろうと思いました」。

ドライフルーツを酒に漬けた、自家製瓶漬け酒は名物のひとつ。
ドライフルーツを酒に漬けた、自家製瓶漬け酒は名物のひとつ。

オープン日はたくさんの人で溢れかえったそうだ。「その後も通ってくれている常連さんは、この界隈で生活している人たちや渋谷で働いている人たちです。みんなこの店で出会って、リアルな渋谷のカルチャーがここから生まれている気がします」。

なるほど、要するにここは渋谷っ子のための溜まり場なのだ。とはいっても間口は広く、屋台のように誰でもウェルカムな雰囲気だから入りやすい。

注目のアーティストたちの装飾が店内を飾る

流行にビンカンな渋谷っ子をときめかせるのは、店内の装飾やグラフィックデザインだ。

「渋谷って昔から若い子が集まる場所で、彼らは大勢で安い居酒屋とかに行くじゃないですか。でも、毎日渋谷で遊んでいる子たちは安いだけじゃつまらない。もっとカルチャーを語れる場所を作りたかったんですよね」

タトゥーアーティストの山田LENさんによる、マッチ箱をモチーフにした看板。
タトゥーアーティストの山田LENさんによる、マッチ箱をモチーフにした看板。

年齢に関係なく誰でもフラットに付き合える今井さんは、自分の青春時代を今の若者に重ねたのかもしれない。ともに合同会社を経営する今井さんと添田さんはかつて服飾デザイナーで、バツグンのセンスを活かして内装のデザインを行っている。

さらに店内を彩っているのは、庭師で盆栽作家の濵本祐介さん、タトゥーアーティストの山田LENさん、グラフィック・デザイナーの山木真さんといったアーティストによる装飾品。店頭の看板や盆栽、店内のグラスや壁にかけてあるイラストなど、ファンにはたまらない。

店を彩るグラフィックが描かれたタンブラーやTシャツなどを、レジ前で販売している。
店を彩るグラフィックが描かれたタンブラーやTシャツなどを、レジ前で販売している。

「国内外で活躍されているすごいアーティストたちですが、みんなもともと知り合いなんですよ。彼らの作品に囲まれている店はなかなかないと思います」

山田LENさんのグラフィックは外の看板にも描かれている。
山田LENさんのグラフィックは外の看板にも描かれている。

一度来たらハマっちゃう世界観。フラッと来たら共通の趣味を持つ誰かがいる店なんて、大人になっても憧れるなぁ。

せいろで蒸したての焼売と自家製の漬け酒で夜中まで飲み続けよう

ところで、この店ではどんなものがいただけるのだろう。店長の小林さんに聞いてみた。

「うちはがっつり飲んで食ってヨレヨレになる店です(笑)。和洋中、オールジャンルのメニューがあるのですが、名物は肉だねからひとつずつ手作りの焼売です。ドリンクはテキーラやイエガーのショットといったクラブにあるような酒や、珍しいところではハブ酒もあります」

ホカホカの焼売を調理する店長の小林さん。
ホカホカの焼売を調理する店長の小林さん。

あ、小林さんが持っているのが名物の焼売ですね。大きくてすごくおいしそう。

焼売は1人前2個セット、注文は2人前から可能ということで、エビ焼売2個380円とチーズ焼売2個380円をオーダー。蒸すのに少し時間がかかるというので、クイックメニューから牡蠣ピー780円、ドリンクは自家製のドライフルーツサワー600円、半地下紅茶の水割り500円を注文した。

“とりあえず”のクイックメニューからがっつりとした揚げ物まで幅広く揃っている。
“とりあえず”のクイックメニューからがっつりとした揚げ物まで幅広く揃っている。

店頭にあるせいろで焼売を蒸すところを見せてもらった。蓋を開けるとうわ〜、湯気がモクモク。

焼売はオーダーが入ってから蒸しあげるため10分ほどかかる。
焼売はオーダーが入ってから蒸しあげるため10分ほどかかる。

焼売の肉だねには豚肩の粗挽き肉に醤油や粗挽きのブラックペッパーなどを入れてよく練り、ひとつずつスタッフが手包みしている。「エビ焼売の肉だねには海老のすり身もはいっているんですよ」と小林さん。聞いてるだけで生唾ゴクリ、出来上がりが楽しみだ〜。

一方、おつまみのロングセラー“柿ピー”……じゃなくて牡蠣ピーとは、オイル漬けにした牡蠣を生のピーマンと一緒に食べるというものだ。

エキストラバージンオリーブオイルや、オイスターソースなどの調味料とともに漬け込んでいる。
エキストラバージンオリーブオイルや、オイスターソースなどの調味料とともに漬け込んでいる。

小林さんの話を聞いているうちにオーダーしていたメニューが出揃った。それじゃあ、いただきまーす。

コロンとした焼売にポテンとした牡蠣をアテに飲むのもいいんじゃない?
コロンとした焼売にポテンとした牡蠣をアテに飲むのもいいんじゃない?

まずは半地下紅茶の水割りから。「焼酎をインドの激ウマ紅茶で割った」というお酒で、紅茶の香りと旨味が舌に広がる。ドライフルーツサワーは、フルーツのさっぱりとした甘さがいい。

ドリンクはオリジナルグラスでいただこう!
ドリンクはオリジナルグラスでいただこう!

次はお待ちかねの焼売に手を伸ばす。熱いものは熱いうちに食べないとね。大きいエビ焼売にかぶりつくと、ふっくらとやわらかくもプルンとした歯応えがある。溶けたチェダーチーズが表面を覆い尽くしているチーズ焼売は、やや肉だねが滑らかな感じだ。

エビの風味をたっぷりと感じられるエビ焼売。
エビの風味をたっぷりと感じられるエビ焼売。
みずみずしいピーマンに牡蠣の旨味が合う!
みずみずしいピーマンに牡蠣の旨味が合う!

凝縮された旨味たっぷりの牡蠣のオイル漬けと、シャクッと香りのいいピーマンがこれまたお酒にぴったり。次は一緒に盛り上がれる友達と来てみよう。こりゃあ、ヨレヨレになるまで飲み続けてしまいそうだ。

渋谷半地下酒場(しぶやはんちかさかば)
住所:東京都渋谷区道玄坂2-13-5 ハーベストビル1F/営業時間:16:00〜翌1:00(金は16:00〜翌5:00、土は15:00〜翌5:00、日は15:00〜24:00)/定休日:第2土/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢

アート・サプライ
編集プロダクション
1971年創業の編プロ。「旅&食&散策」ジャンルに強く、情報誌では子供向けから鉄道やドライブでの大人旅まで。さらにグルメ系ではラーメンや唐揚げ専門情報誌をはじめ、日本全国うまいもの紹介なども手掛けている。