日本の大手酒類メーカーが、好調のウイスキーに次ぐ洋酒市場の開拓を本格化させている。サントリーはジンに、アサヒビールはテキーラに、サッポロビールはラムにそれぞれ焦点を当て、希少性を訴求する付加価値の高い新商品を投入するなど需要創出を目指す動きが目立ってきた。背景には、世界的ブームで「山崎」「余市」といった各社の国産ウイスキーの原酒不足が顕在化しており、不足解消までの間に新たな収益領域を広げる狙いもある。

コロナ禍明けテキーラ好調

「静かなバーなどで飲まれるウイスキーと異なり、テキーラはクラブなど人が集まる楽しい場所で飲まれる。コロナ禍からの回復で需要は伸びており、シャンパンなどに代わるお酒として選ぶ人も増えている」

アサヒが27日、都内で開いた輸入販売するテキーラの新商品発表会で、ワイン・スピリッツマーケティング部の松橋裕介部長はこう述べ、国内のテキーラ市場の成長に自信を見せた。

実際、国内のテキーラ市場は好調に推移している。英調査会社IWSRによると、国内のテキーラの販売数量は、コロナ禍前である2018年の23万1800ケース(1ケース=9リットル換算)から、23年は34万1000ケースへ約1・5倍に拡大している。その中で牽引するのは、「スーパープレミアム」と呼ばれる高価格帯のカテゴリだ。18年に国内売上数量が3%程度だった同カテゴリは、23年には13%まで増加。金額ベースでは9%から33%に急増した。

こうした市場動向を受け、アサヒは輸入販売するメキシコのホセ・クエルボのテキーラで、高価格帯の「1800ミレニオ」を7月2日から発売すると発表した。原料にアガベを100%使用し、3年以上樽で熟成することで高い付加価値を訴求する。価格は同ブランド最高の2万8380円(750ミリリットル)で、3000本限定で販売する。「テキーラの市場規模は、高価格帯の商品のないジンの規模に近づける」と松橋氏。高価格帯の商品強化で市場底上げを狙う。

国産でジン市場を席巻

とはいえ、ウイスキーに次ぐ市場形成で先行しているのはジンだ。IWSRによると、22年の国内輸入スピリッツ(蒸留酒)の市場規模では、テキーラの85億円(10年平均成長率7%増)に対し、ジンは161億円(同11%)で倍近い差がある。

高い市場成長を促したのは、国内のジン市場で約8割りのシェアを握るサントリーだ。国産原料にこだわった「翠(すい)」のブランドで国産のジンをヒットさせ、17年に輸入品が74%を占めていた国内ジン市場を、23年には国産シェアを65%に高め、市場浮揚のきっかけを作った。

ジンはウイスキーと工程が似ており、大規模な設備がなくても味や香りに独自性を出しやすい特徴がある。また、ウイスキーのように長い熟成期間は不要なため、早期に収益化しやすいメリットもある。

サントリーは今年、缶商品の「翠(すい)ジンソーダ」、桜花や煎茶など6つの国産素材を使った「ROKU〈六〉」で、それぞれ初めてとなる限定商品を投入するなど展開を積極化。大阪工場(大阪市)に55億円を投じ、25年までに生産能力を2・6倍に高め、30年に国内ジン市場を23年比で2・1倍の450億円まで引き上げる計画を示す。

ハイボールでラム市場開く

一方で、ラムに成長余地を見いだすのはサッポロだ。輸入販売する英領バミューダの酒類大手バカルディのラムブランド「バカルディ」で、アサヒ同様に付加価値を高めることによる売り上げ拡大戦略を描く。

着目したのは、ウイスキーのハイボール(炭酸水割)に満足していないユーザーが約2割いるという調査結果だ。そこで、ウイスキーと同じオークたるで熟成させ、付加価値の高い「バカルディゴールド」で作るハイボールを提案。若者が集う音楽フェスにブースを出展するなどでブランド周知を図り、バカルディを取り扱う飲食店の拡大につなげる考えだ。

サッポロも、30年までに国内ラム市場を23年比で2倍の100億円規模への拡大を目標に掲げるなど、各社とも強気な姿勢で挑む。(西村利也)