渋沢栄一の肖像を使った一万円札などの新紙幣が3日に発行されたが、今後、旧札から切り替わっていくタイミングを狙った犯罪には注意が必要だ。前回、新紙幣が発行された数カ月後には大規模な偽札事件が発生。動画共有サイトでは、新紙幣発行は「政府が預金封鎖に踏み切るため」などとする陰謀論が多くの人に視聴されている。「旧札が使えなくなる」詐欺ではすでに被害も出ており、日銀・財務省や警察、地方自治体などが注意喚起している。

「これが新札か」の隙を突く

平成16年11月の前回新紙幣発行の翌17年の正月、東京都台東区の浅草寺など全国の寺や神社、参拝者向けの露店などで偽の旧一万円札が出回る事件が発生。初詣の混雑時を狙ったほか、受け取って違和感を持っても、新札を見たことがない人は「これが新札か」と思ってしまう心理的な隙(すき)を突いた犯罪だった。

また、新紙幣は新技術で偽造が難しくなるため、旧札と誤認させるように偽造したようだ。実際、この事件を受けて日銀は国立印刷局に新紙幣の増刷を求め、旧札の回収を急ぐことになった。

この事件では結局、暴力団組長らが逮捕され、有罪判決を受けた。

「資産を守れ」と危機感煽る

この偽札事件と同じ年に登場した動画共有サイトのユーチューブ。新紙幣発行と「預金封鎖」を結び付け、警戒感を煽るような動画が投稿されている。

「まもなく来る? 預金封鎖」「隠された政府の陰謀」「資産を守るためにやっておくべきこと」…。預金封鎖とは、銀行預金などの金融資産の引き出しを封鎖することで、ハイパーインフレ(激しい物価上昇)を抑えるために日本でも昭和21年に行われた。この時、新紙幣発行のタイミングで実施されたのは事実。ただ、現在の物価上昇はハイパーインフレといえるような水準ではなく、利上げなど物価上昇を抑える金融政策の余地もある。預金封鎖という過激な非常手段に踏み切ることは考えられない。

動画共有アプリの「TikTok」でも、同じような内容の投稿がある。再生回数を増やそうとしているとみられるが、資金移動を促すことで、投資を勧誘するような投稿も混じっている可能性がある。

旧札が使えなくなるという偽情報については、すでにこれを利用した詐欺事件が発生。東京都内では80代と90代の計4人が約1500万円をだまし取られた。

迷惑情報フィルタサービスを提供するトビラシステムズ(名古屋市)は、新札発行に伴って予想される詐欺の手口を紹介。①「従来の紙幣は使えなくなるので回収する」と言い、現金をだまし取る②「古い紙幣を振り込めば、新しい紙幣に交換する」と言い、指定の銀行口座に振り込ませる③「ATMで紙幣を使えるか調査を行っているので、協力してほしい」と言い、現金をだまし取るーを挙げている。

日銀は3日、X(旧ツイッター)で改めて「『従来のお札が使えなくなるといった誤った情報や詐欺行為などにご注意ください」と呼びかけた。