液状化で傾いた住宅などの建物をウレタン樹脂を使って修復する企業が、能登半島地震をきっかけに脚光を浴びている。高度な技術を使って建物の下の地中にウレタンを注入し、建物の傾きを直す。液状化被害が特に大きかった新潟市江南区の住宅で修復作業を行うというので、その現場をみてきた。

昨夏入居したばかりの住宅も…

この企業は川崎市に本社がある「アップコン」(松藤展和社長)。ウレタンを使って、液状化などで傾いた工場や店舗、住宅の修復工事を行っている。空港の滑走路やトンネルなど大規模インフラの修復も手掛けている。

能登半島地震では大規模な液状化が発生。同社には「新潟や石川など北陸3県から問い合わせが多く寄せられている」(松藤社長)という。

3月中旬、新潟市江南区天野地区の傾いた住宅で修復作業を公開するというので見てきた。作業スタッフは5人ほど。直前まで石川県穴水町に滞在し、地震で傾いた工場の修復工事を終えて新潟に駆け付けた。

作業を行うのは、敷地面積約55平方メートルの2階建て住宅。家主によると、昨夏に入居したばかりの新築の建売住宅だったが、能登半島地震による液状化で傾いてしまった。市の調査では半壊と判定されたという。

作業は、住宅外壁に機器を設置し、傾き具合を計測するところからスタート。液状化による住宅の傾きは10・6センチと判明した。

続いて作業員2人が台所の床下収納の扉から、高さ40センチほどの床下空間に潜り込んでいく。コンクリート製の基礎部分にドリルで小さな穴を開け、そこに屋外の作業用トラックから引き込んだチューブを差し込み、液体状のウレタン樹脂を基礎の下の地中に流し込んでいく。

ウレタンは土の粒子の間に入り込んで膨らみながら固まり、徐々に傾きを修繕していく。作業員の一人は「注入場所をうまく調整しながら傾きを直していくのが当社の技術。建物の重量によって、どれくらい注入すれば、どれくらい持ち上がるかを計算しながら作業をしている」と明かした。

気になる費用は?

松藤社長によると、ウレタンは紫外線に弱いが、地中では紫外線に当たることがないため、品質は半永久的に保たれるという。

傾きを修復する作業は3日間で完了。家主は「家が傾いていたときは、階段を上ると後ろに引っ張られるような感覚があったが、それがなくなった」と喜んでいた。

気になる費用は、敷地面積55平方メートルで傾きが10センチだと、400万〜500万円程度。傾きが5センチだと300万円ほどという。

この工事は建物の傾きを直すのに効果的だが、今後大地震が来たときに液状化を防止する効果はないという。住宅の基礎の下の比較的浅い地中にウレタンを注入するため、それより深い地中で起きる液状化を防ぐことはできないそうだ。

液状化から救え!

松藤社長は米国の大学院を修了後、オーストラリアの建設設計事務所に勤務。現地で普及していたウレタンを使った沈下修正技術を日本にも広げようと、約20年前の平成15年にアップコンを立ち上げた。

東日本大震災では、千葉県浦安市で多くの住宅が液状化被害に遭った。同社は同市内の傾いた住宅約40棟を修復した実績がある。

このほか、海に囲まれ、大部分が埋め立て地の羽田空港では、滑走路に段差が生じることもある。ここにも同社の技術が生かされ、段差を解消している。

松藤社長は「当社のミッションは沈下で困っている人を助けること。家が傾いて精神的に病んでしまう人もいる。そういう人を助けたい」と話している。(本田賢一)