東京都知事選が20日、告示された。欧州諸国1国分の人口・経済規模を誇る日本の首都は今、少子高齢化による衰退の道をたどり、国全体も巻き込もうとしている。首都直下地震などの災害や不安定な国際情勢への対応も喫緊の課題。各候補は選挙戦を通し東京の処方箋をどう打ち出すのか。目標に近づくために国も引き込むリーダーが求められる。

欧州1国並み

都の人口1400万人はベルギーより多く、年間予算16・5兆円はスウェーデンと遜色がない。国内総生産(GDP)の都内分である都内総生産約113兆円はオランダ並み。欧州諸国1国分の規模を誇る東京は地盤沈下の危機にある。今月発表された都の合計特殊出生率は初めて1を割り込み、「0・99ショック」に見舞われた。

生まれる子供が減る一方、一極集中が進む。都外からの流入が人口増を支え、国全体の活力を奪いながら、東京は急激に老化している。

各候補とも危機意識は共通しており、少子化対策を重点施策に据える。現職の小池百合子氏(71)は第一声で都の対策が「国を動かしている」と強調。先に発表した公約では無痛分娩(ぶんべん)への助成を新たに打ち出し選挙での目玉公約と位置付ける。

小池氏は妊娠・出産から子育てまでを包括した過去8年間の施策を「シームレス(切れ目のない)な支援」と胸を張る。しかし都の少子化を止めることができていない以上、施策の重点化など、これまでとは違う視点が必要であり、「選挙中に追加する」という新たな公約が注目される。

新人の蓮舫氏(56)は「若い人たちの負担と不安を取り除きたい」と第一声で訴えた。現役世代の収入を増やし結婚の機運を高める考えを示すが、数字の裏付けに乏しく、実現にはより深い議論が求められる。

安全に温度差

首都の安全も大きな課題となっている。直下地震の危険性が指摘されて久しいが、木造住宅密集地域(木密地域)の解消などは道半ば。ロシアのウクライナ侵攻や相次ぐ北朝鮮のミサイル発射など、国際情勢は不安定さを増す。

小池氏はこの日、「首都防衛」をキーワードに「都民の命を守る」と強調。都が計画している地下鉄駅での地下シェルター整備などは、スピード感を持って進めるべき施策だろう。

一方の蓮舫氏は第一声で防災について、ほとんど触れず、関連公約でもあまりスペースを割いてない。2週間余りの選挙戦で、首都の安全を巡る議論が高まることが期待される。

大きなうねりを

東京の麻痺(まひ)は国家の危機に直結する。ただ、ここまでに挙げた課題だけですら、都が単独で解決することは至難の業だろう。国にとっても重要な論点であり、今回の都知事選を好機として、大きな議論につなげることが重要となる。

過去には、首都のトップが国を動かした。都知事時代の石原慎太郎氏は「玄関が狭くて客が来なければ、この国はますます衰弱する」と訴え、「羽田空港再国際化」の道筋を付けた。

羽田の強化は、現在も東京の国際競争力を支える。首都のリーダーには今、国を動かす政策と行動力が求められている。(大泉晋之助)