【ワシントン=大内清】個人による戦争犯罪やジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)が、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラエル政府・軍指導層と、イスラム原理主義組織ハマスの指導者らに対する逮捕状発付を検討しているとの観測が強まっている。バイデン米政権のジャンピエール大統領報道官は4月29日、「(ガザの)状況にICCの管轄権はない。捜査は支持しない」と述べ、ICCを牽制(けんせい)した。

イスラエルのメディアや米紙ニューヨーク・タイムズが同日までに報じたところでは、イスラエル政府内では、昨年10月のハマスの奇襲攻撃に対するイスラエル軍の過剰報復や、ガザへの人道支援物資の搬入妨害について逮捕状発付の準備が進んでいるとの見方が強い。逮捕状の対象にはネタニヤフ首相も含まれる可能性があるとしている。奇襲攻撃を行ったハマスの指導者複数人にも逮捕状が出される可能性が高いという。

イスラエルや米国はICC非加盟だが、将来の国家承認を目指すパレスチナ自治政府は2015年に加盟を果たしている。

一方、米国務省は29日、イスラエル軍の5部隊が昨年10月のハマスによる奇襲攻撃以前に、ガザ以外の地域で「重大な人権侵害」を行ったと断定したと明らかにした。詳細は不明だが、占領地のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸では、同国軍によるパレスチナ人への司法外殺人や拷問、身体的虐待が国際人権団体によって多数報告されている。

米政府がイスラエル軍による人権侵害を明言するのは極めて異例。米国内法は人権侵害行為が確認された外国軍部隊への武器支援を禁じている。ただ同省のパテル報道官は、今回の事案ではほとんどの部隊でイスラエルの法規による「矯正措置」がとられており、米国製武器の供与に問題はないとしている。

ロイター通信によると、人権侵害行為が断定された部隊の一つは、ユダヤ教超正統派を中心に構成される「ネツァ・イェフダ大隊」とみられる。同大隊は西岸で22年に起きたパレスチナ系米国人の拘束・死亡に関与したと指摘され、国務省が近く制裁を発動するとの見方が強い。