東京・上野で飲食店を展開する「サンエイ商事」社長の宝島龍太郎さん(55)と妻の幸子さん(56)が殺害され、火をつけられた遺体が栃木県那須町で見つかった事件は、警視庁と栃木県警の合同捜査本部が同社幹部社員の関根誠端容疑者(32)=東京都世田谷区=を死体損壊の容疑で逮捕し、全容解明へ向け大きく動き出した。宝島さん夫妻の長女の内縁の夫である関根容疑者は、サンエイの“番頭役”として知られていたが、事業の経営を巡る対立が昨年から深刻化し、双方が相手の「追い落とし」を狙っていることを隠さなかったことが関係者の証言でわかった。
 

宝島夫妻の右腕だった関根容疑者

今年1月には宝島さん側が関根容疑者の影響力をそぐためとみられる会社の役員人事を行なっており、これで両者の確執が一層深まったとの見方もある。

捜査本部もこの情報を把握しており、経営権を奪う目的で関根容疑者が一連の犯行を計画した可能性を調べている。

捜査本部は5月7日早朝、上野にある不動産会社役員の前田亮容疑者(36)も同じく死体損壊容疑で逮捕した。宝島さん夫妻は4月15日夜、上野からワゴン車に乗り込み、新規開店を計画する店舗の物件を見るため品川方面へ向かい、その後、東五反田の空き家で暴行され殺害されたか、抵抗不能の状態になったとみられている。

宝島さん夫妻と関根、前田両容疑者の計4人がこの空き家の方向へ向かう姿が付近の防犯カメラに映っており、捜査本部は関根容疑者ら二人の空き家での行動を追及している。

上野の不動産関係者によると、前田容疑者は宝島さんと仕事上の付き合いがあり、関根容疑者とも顔見知りで、東五反田の空き家の管理にも携わっていたとの情報がある。

捜査本部は、関根、前田両容疑者が共謀して前田容疑者が持つ不動産情報で宝島さん夫妻を誘い出し、自由に出入りできる東五反田の家に連れ込んだとみている。

一方、サンエイ系列の飲食店が立ち並ぶ上野の通称「宝島ロード」で、関根容疑者が同じ容疑で逮捕されている福岡県出身の佐々木光容疑者(28)と談笑したり一緒に酒を飲んだりしていたことも、周辺の飲食店関係者の話でわかった。

事件では、遺体が発見された翌日の4月17日に平山綾拳容疑者(25)が警察に出頭し「アニキから車を用意しろと言われ、遺体の処理を行なう実行犯として飲み仲間2人を紹介し、粘着テープなどの凶器を購入したうえで車を引き渡した」と供述。この「アニキ」が佐々木容疑者とみられている。

佐々木容疑者は2月上旬から宝島ロードで飲食店の客引きをしており、関根容疑者はサンエイ系列の店のすぐそばの路上にいた佐々木容疑者と知り合ったとみられる。

そして宝島さん夫婦を襲撃する計画を立てる中で、関根容疑者が佐々木容疑者に「遺体処理グループ」をつくって準備するよう指示していた疑いもあるとみて捜査本部は調べを進めている。

サンエイ従業員らによれば、関根容疑者はグループ店舗間での従業員配置の采配や食材の手配、店舗拡張時の物件探しなど、宝島さん夫妻の右腕として中心的に働いていたという。 

「関根容疑者のことを宝島さんは快く思っていなかった」

さらに、近隣の店舗との客引きをめぐるトラブルでは、関根容疑者が幸子さんと一緒に相手の店に乗り込んで抗議し、その過程で双方がそれぞれ相手から暴行を受けたと訴える衝突もしばしば起きていた。

だが、宝島さん夫妻と関根容疑者の双方を知る関係者は、「夫妻と関根が一体になって動いていたのは表だけのことだ」と内情を話す。

「宝島さんがつくり上げたサンエイは上野で14店舗を運営しているとうたっていますが、実際には関根さんが出店計画から店のコンセプトまで決めた“関根プロデュース”ともいえる店が5軒あります。
詳しくはわからないですが、事実上経営を分離し、関根さんが形の上では経営者になっていたはず。関根さんには商売の才覚があったようで、これら5軒はみんな大繁盛していて、サンエイ全体の中でも目立っていたんです。そのため関根さんの存在感は宝島社長をしのぐほど大きくなったと受け止める人もいました」(関係者)

問題はこれが内紛に発展したことだ。

「この状態を宝島さんは快く思っておらず、『おれが社長なんだからもっとおれを立てろ』とか『おれの会社だからもっと(売り上げを)よこせ』みたいなことを口にするようになり、関根さんに圧力をかけていたといいます。

そして、その稼ぎのいい5軒の経営を完全に自分のものにしようとする動きも見せていました。これに対し関根さんは当然抵抗し、内縁の妻である宝島夫妻の長女も『こちら側についた』と周囲に話していた。

つまり宝島夫妻と長女夫婦の対立になり、関係が悪化していたといいます。こうした状況は昨年には周囲には見えていました」(関係者)

さらに今年1月、サンエイではそれまで取締役だった長女が退任し、代わりに次女が取締役に就任した。「長女とその連れ合いである関根をサンエイの経営から外す動き」と周囲には受け止められたという。

「ただし、今回の事件は計画も含め関根が“単独”で考え、暴走した可能性が高い。長女は調べや家宅捜索にも協力的で警察はこれまでも長女を遺族として接している。主犯の内縁の妻ということで、ネットにはいろいろな憶測が出ており、相当ショックを受けている」(社会部記者) 

「(店を)取られるくらいなら、こっちから取ってやるか」

関根容疑者と一緒に飲んだこともあるという上野の同業者は、関根容疑者が「(店を)取られるくらいなら、こっちから取ってやるか」と口にしたのを聞いたことがあると証言した。

宝島さんと関根容疑者の関係は相当緊張していたことがうかがえる。捜査本部は、こうした状況が事件の背景にあり、関根容疑者が宝島さん夫妻の殺害も主導した疑いがあるとみて調べている。

ただ、近隣の飲食店経営者は、最近、関根容疑者が主導して開店した新しい店で、幸子さんと関根容疑者が一緒に接客をしていた姿を目撃している。

当初、店舗間での客引きを巡るトラブルからライバル店の経営者や従業員の周辺捜査をしていた捜査本部は、上野の飲食店業界からの情報でサンエイで内紛が起きていたとの情報を把握。

ゴールデンウィークに入る前の4月下旬には世田谷区の閑静な住宅街にある関根容疑者の自宅周辺に捜査車両を配置し、静かに動向を追っていた。

捜査が一気に動いたのは連休最終日の5月6日。夕方4時ごろに近所のマンション駐車場に複数の捜査車両が停められ、約7時間後の午後11時にミニバンが関根容疑者の自宅があるマンションの玄関先に移動。その後、捜査員が次々と現れ家宅捜索が始まった。

そして一度地下駐車場に入ったミニバンは午後11時半ごろに出てきて走り去った。関根容疑者は自宅で逮捕されており、このときミニバンに乗せられていたとみられる。

家宅捜索はその後も約4時間続き、7日午前3時半すぎに終了。玄関前につけられたワンボックスカーには、段ボールとプラスチックのケースが次々と運び込まれた。

経営権争いが宝島夫妻の殺害にまで至ったのか。捜査は主犯格である可能性が高い関根容疑者への強制捜査で一気に大詰めを迎えている。                                  

取材・文/集英社オンライン編集部