労働組合系の問題の解決を図る労働委員会で現在も話し合いが行なわれています
労働組合系の問題の解決を図る労働委員会で現在も話し合いが行なわれています

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第47回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

* * *

この連載のタイトルは「ギグワーカー兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌」。ウーバーイーツの便利な使い方や配達中のエピソードなどはこれまでかなりお伝えしてきましたが、「組合」に関する話は1回しか紹介していません。なので今回は、久しぶりに組合関係の話について書こうと思います。

以前、「ウーバーイーツユニオン執行委員長が明かす、ゆるい組合活動の実態」で書いたように、私が執行委員長をやっておりますウーバーイーツユニオンは、ウーバーイーツを運営する会社に対して「労働組合として認めて団体交渉に応じてください」という救済を申し立てています。一方、会社側は「労働組合として認められない」という立場で、現在、厚生労働省の中央労働委員会という場所で争っています。

一般的に民事のいざこざは裁判所で争うものですが、労働組合系の問題については労働委員会という、都道府県や国にある組織が解決を図るシステムになっています。

厚生労働省のホームページによると

労働委員会とは、労働者が団結することを擁護し、労働関係の公正な調整を図ることを目的として、労働組合法に基づき設置された機関で
(1)中央労働委員会(国の機関) 
(2)都道府県労働委員会(都道府県の機関)
の2種類が置かれています。
労働委員会は、公益を代表する委員(公益委員)、労働者を代表する委員(労働者委員)、使用者を代表する委員(使用者委員)のそれぞれ同数によって組織されています。

となっています。

裁判所では、司法試験や司法修習の関門をくぐり抜け、判事補、判事の経験を積んだ裁判官が判断しますが、労働委員会で命令を出すのは公益委員。この公益委員は労働者参与委員と使用者参与委員の意見を聞いて、中央労働委員会の場合は厚生労働大臣が、都道府県労働委員会の場合は都道府県知事が任命します。

選ばれるのは労働関係の法律に詳しい専門家で、大学教授などを経験した人が選ばれます。また、労働者委員は企業の組合に長年所属されていた方、使用者委員は使用者側として組合との話し合いに関わってきた企業の方が多く選ばれています。

裁判の場合「原告と弁護士」「被告と弁護士」「裁判官」という、それぞれの立場が独立した感じの構造ですが、労働委員会の場合は「労働者と弁護士と労働者委員」「会社と弁護士と使用者委員」「公益委員と労働者委員と使用者委員」という構造で、労働者委員と使用者委員が命令を出す公益委員と労働者・会社側を行ったり来たりするという構造になっています。

裁判とは異なり、労働委員会に所属する労働者委員、使用者委員には中立性が求められないため、組合のメンバーや弁護団と労働者委員の方が飲み会をして意見交換するなんてこともあります。

また、法廷のような立派な場所ではなく、大きめの会議室に長テーブルと椅子を置いて話し合いを進めます。裁判所のような傍聴席はありません。ですが、争点整理や証拠の提出、証人尋問など、裁判と同じ感じで審理が行なわれ、命令が下されます。

労働組合問題は、まず都道府県の労働委員会へ申し立てを行ない、不服がある場合は国の中央労働委員会に訴える流れになります。

ウーバーイーツユニオンでは2019年、東京都労働委員会に救済の申し立てをしました。そして2022年にこちら側の申し立てを認める命令が出ました。その後会社側が中央労働委員会に審査請求をして現在に至ります。中央労働委員会の命令が不服の場合は、不服のある側が中央労働委員会を訴える裁判を地方裁判所に起こすことができます。判決に不服があれば高等裁判所に、そこでの判決が不服なら最高裁判所へ訴えを起こすことができます。

そんなわけで立場上は組合の委員長ですが、組合として会社側と交渉を行なうことができるかどうかはまだわからない状態。委員長というポストに就いていますがなんの権限もありません。

ですが、労働委員会に出るのは人生でなかなか経験できないこと。さらに裁判へと進めば法廷に立つ可能性もあります。自分はそのような普通に生活していたらなかなか経験できないことを楽しめるタイプなので、メンバーから解任されない限り、委員長として関わっていけたらと考えています。

文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明