4月4日、フォレンダムがフェイエノールトに撃たれたシュートは23本。長田澪(ドイツ名はミオ・バックハウス)は11回のセーブで格上を完封し、最下位に沈むチームに1部残留の望みをつなぐ勝点1(0−0)に貢献した。20試合ぶりのクリーンシートに、長田は「マジで無失点は超嬉しいですね」と声を弾ませた。

 当然、マン・オブ・ザ・マッチは長田。試合後、ファンから祝福の嵐を浴びた19歳の守護神は「ファンの前で嬉しかったです。ファンに喜んでもらえるためにサッカー選手になったようなもの」と喜んだ。

 19分、フェイエノールトのエースストライカー、サンティアゴ・ヒメネスの強烈なシュートを左手首の辺りで止めたあと、長田は座り込んでしまい、ベンチに交代を要求する合図を送った。

「実はあれは『テーピングを替えてほしい』というゼスチャーだったんです。5週間くらい前から左ヒジが痛くて、ヒメネスのシュートを止めた箇所が、ヒジが後ろに伸びるポイントだったんです。フィジオ(犬塚健太氏)から『お前、惑わすな』って言われてしまいました(笑)」

 これから15位・RKC(4月7日)、16位・エクセルシオール(同12日)との直接対決がフォレンダムを待ち受ける。

「これが最後のチャンス。勝たないと、本当に俺たちは終わってしまう。それでも、俺らに失うものはない。今はすごく良い雰囲気で練習も試合もできていると思います。だけど2試合連続で引き分けたけれど、チームは今年まだ勝ってないんですよ。サッカーのやり方が変わっただけで、結果は変わってなく、チームの置かれた状況も変わっていない。

 今日は満足ですが、日曜日の試合に向けて気持ちを切り替えないとね。だけど、中2日だからそれ(切り替え)が一番難しい。疲れでキレのない選手もいる。自分もちょっと疲れがあるので、今日からリカバリーをはじめて、日曜日に向けて頭の中を切り替えます。これから勝ち続けて残留を決めます」
 
 3月22日と25日、U-20ドイツ代表はフランスと練習試合を行なった。データサイトを見ると、長田は1戦目(3−1)で後半から出場し、2戦目(4−4)はフル出場した。

「いえ、2試合目は前半だけでした。そうすると僕ともうひとりのキーパーはU-20ドイツ代表として2試合キャップが付くわけです。そのことは僕たちにとってプラスになります」

 ハンネス・ヴォルフ監督は勝つための采配ではなく、若いGKふたりのキャリアにつながる策を取ったわけだ。

 U-15世代からドイツ代表でプレーする長田のスタッツを眺めていると、一度の例外を除き、招集されたら最低でも1試合はプレーしている。「代表チームに呼んだからには、試合に出して国際舞台を経験させる」というドイツサッカー協会の強い意思が、このスタッツから透けて見える。

 1試合もプレーできずにベンチに留まったのは22年9月、U-19ユーロ予選の3連戦だった。

「その前の練習試合で絶不調でミスをして、突然『お前は出さない』って言われました。試合に出られなかった時はもちろんヘコみました。それでも、試合に出るキーパーを助けるのはもちろんのこと、俺はやるべきことをしなければいけない。みんなのモチベーションを上げたり、夜は『みんなでゲームをしようぜ!』と盛り上げたりね。それ以外は毎回、必ず1試合はプレーしています」
 サッカー大国ドイツの未来を担うタレントたち。そんな彼らのことをドイツ人はどのように見守っているのだろうか?
 
「U-20なんて報道されない。本当にたまに記者が来る。今回のフランス戦も、ほとんど誰も知らないと思います。

 もちろんユーロ予選になると勝たなきゃいけないというのはありますし、すごい覚悟で監督、選手は挑んでいますけど、ただ、メディアから『勝たなきゃいけない』とか、『なんでこの選手を呼ばないんだ』というのはほとんどないですね。ファンからもプレッシャーを掛けられない。そこには『選手たちはまだ若いんだから、(勝負にこだわらず)やらしときゃいいじゃん』みたいな精神があるじゃないでしょうか。なかには『またユーロの本戦に行けないのかよ』とか口酸っぱく言う人もいるんですが、それもすごく少数だと思います。だから、あまりプレッシャーは掛かりませんね」

 要するに、自分たちの成長にフォーカスできる環境ということだろうか?

「でもユーロ予選になったら...」

――国を背負っている?

「いや、選手自身が予選を突破したいですからね。ユーロ本大会に行けば注目されるし、もっといい相手と試合ができるし、もっとステップアップできるし。でもそれはあくまで自分のため。他の誰かのために戦っているわけじゃない。僕にとって(強調しながら)“世代別代表”はそういう感覚です」
 
 U-20エリートリーグという大会がある。これはUEFA管轄の大会ではなく、欧州8か国の有志によって開かれている非公認のハイレベルな大会だ。昨年11月、U-20ドイツ代表はルーマニア戦(1−0)、イングランド戦(2−3)と戦ったが、長田はフォレンダムに残ってKNVBカップでプレーした。

「その前のリーグ戦、対スパルタ(1−4)で僕の調子が悪くって、『このままじゃ、俺は次のリーグ戦で試合に出れないな』と危機感を感じて、フォレンダムのカップ戦に出ることにした。そのためU-20ドイツ代表をドタキャンする形となり、監督からすごく怒られました。そのまま話し合って和解し、今回の代表活動ではすごく良くしてもらいました。代表に行っても、クラブで出られなくなったらまったく意味がありませんからね。

 今回、フランスと試合をしましたが、すでにA代表に行った選手もいますので『スゲエな』と思うことはもうありませんが、やはりレベルは高く、同世代のトッププレーヤーとやっている気がします。一度クラブから離れて代表に参加したことでリフレッシュできました」

 そんな話をしている傍らをフェイエノールトのアルネ・スロット監督が「ナイスゲーム!」と長田の肩を叩きながら、声をかけて行った。

取材・文●中田 徹

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