[J1第10節]広島 2−2 川崎/4月28日/エディオンピースウイング広島
 
 その姿からは熱を感じる。

 その姿を見ると心を揺さぶられる。

 油断すると熱いものが込み上げてきそうになってしまう。

 そんな選手は今のJリーグを探してもなかなかいない。

 10節の広島戦で、J1通算140得点目を奪い、雄叫びを上げたのは、川崎の頼れるストライカー小林悠である。憧れの“カズさん”こと三浦知良の記録を抜くメモリアルな一発になった。

 36歳で迎えた今季、ギラツキに衰えはなかった。チームが下位に低迷するなか、自身もこれが今季初得点と、なかなか結果を残すことができなかったが、広島戦の前には鬼木達監督から、この試合をキッカケに這い上がっていこうと、熱いスピーチがあったという。

 これを粋に感じるのが小林という男である。

「オニさんがミーティングですごく熱いことを言ってくれていて、ここで一番長くやっている自分が奮起しないと、誰がやるんだという気持ちで入りましたし、信頼して長い時間を使ってもらって、信頼に応えたいという想いがありました」

【動画】小林のJ1通算140得点のゴールシーン
 0−1で迎えた後半開始からピッチに送られる。勝てない時期が続き、自信を失いかけている選手もいたのだろう。

「背中を叩いて、ケツを叩いて、絶対に勝って帰るぞと伝えた」

 仲間たちを鼓舞する姿がそこにあった。

 そして迎えた65分。左からのCKがゴール前にこぼれると、いち早く反応したのが小林であった。綺麗に崩した形ではない。どちらかと言えば泥臭いゴールである。それでも決めてしまうのが彼なのである。

「自分としては気持ちの選手だなと再確認しました。試合への持っていきかたは改めて大事だなと。

 こぼれてくるのは気持ちが強いからだと思うので、どっかにこぼれてくる準備だったり、そういうものが、これだけゴールを決めてきたことにつながっているはずです」

 ゴール直後には「ここからだぞ!!」と言わんばかりに、再びチームを叱咤激励する。しかし、直後の74分、足を痛めてプレー続行が難しくなった。

 悔しさからピッチを見つめ続け、顔を上げることはできなかった。

 試合は、その小林と交代で入ったFW山田新が勝ち越し弾を奪うも、同点に追い付かれて2−2のドローで終えた。

 小林は試合後、勝てなかったことを何より悔やんだ。それでも前向いて語る。

「この順位(16位)にいても優勝を目指していると監督がまっすぐに言ってくれますし、それを選手が信じないでどうするんだと。特に自分は一番長いので、オニさんに付いていくという姿をもっと背中とかで見せないといけないと思っています。

 やっぱりそういう選手がピッチに何人かいるかが、勝つ確率を上げると思うので、監督だけでなく選手がみんな強い気持ちを持ってやっていければ上がっていけるはずですし、だからこそ勝ちたかったです」

 その姿から周囲は熱を、勇気をもらうのだろう。そして改めて無骨にゴールを狙い続け、チームのために戦い続ける様は感動を呼ぶ。彼のプレーを見続けたい。そう願う人は多いに違いない。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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