青森山田高の3年生だった松木玖生(FC東京)は、こんな言葉を残していた。

「3年後の五輪は狙っています」。東京五輪が終わって約1週間。「まずはチームで結果を残すことが第一優先」としつつ、インターハイが行なわれた福井の地で、はっきりと自身のビジョンを口にしていた。

 東京五輪の試合はほとんどテレビで観戦。なんとなく見るのではなく、同じポジションに自分が入った場合を想定しながら、真剣な眼差しで見入った。今思えば、この頃からパリに向けた“松木玖生”の物語はスタートしていたのだろう。

 時は経て2024年4月。松木はカタールの地にやってきた。パリ五輪のアジア最終予選を兼ねるU-23アジアカップに大岩ジャパンのメンバーとして参戦し、副キャプテンという大役を担いながら、中盤の要としてチームのために走り続けている。

 グループステージ初戦の中国戦(1−0)では、鮮やかなボレーで開始早々に先制点を決めた。準々決勝のカタール戦(4−2)と準決勝のイラク戦(2−0)でも先発出場。カタール戦では戦術的な理由と警告を1枚もらっていた影響で前半のみの出場だったが、勝てば五輪行きが決まるイラク戦は80分までピッチに立った。
 
 そのイラク戦では、繋ぎの部分でいくつかミスがあり、相手をファールで止めるシーンもあったが、試合を通じて安定したプレーを披露。この日はインサイドハーフで荒木遼太郎(FC東京)とコンビを組んだため、攻撃に比重を置く“10番”の役割ではなく、“8番”のポジションで攻守の繋ぎ役を全う。中盤でタフに戦い、球際の勝負で相手を凌駕した。

 豊富な運動量を武器にボックス・トゥ・ボックスで動き回り、強烈なミドルシュートも放った。相手を脅かす一撃は、一度や二度ではなかった。

 そして、イラクに勝利。まずは最初の関門を突破し、パリ五輪出場への最低限の通過点をクリアした。奇しくも試合翌日の4月30日は、21歳の誕生日でもあった。

 松木は「ホッとした。今日は勝った喜びを噛み締めたい」と語り、「最高の誕生日を迎えることができました。ここまで来られたのは自分の力だけではない。スタッフ全員、チームメイトも含めて、最高のプレゼントを送ってもらったので、次は自分が期待に応えていきたい」と、ウズベキスタンとの決勝に向けて気を引き締め直した。

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 3年前にパリ五輪出場という目標を掲げた松木。プロではルーキーイヤーからFC東京でポジションを掴み、31試合で2ゴールを奪った。翌年も主軸としてプレーし、今季はキャプテンに就任。代表では、高3の10月に飛び級でU-23アジアカップ予選に出場し、翌年3月には大岩ジャパンの立ち上げ遠征となるドバイカップのメンバーにも選ばれた。

 U-20日本代表でもキャプテンとして活躍し、昨季は3月にU-20アジアカップ、5月にはU-20ワールドカップに出場した。

 特にU-20日本代表での体験は唯一無二で、自身初の世界大会では多くの学びがあった。1勝1敗で迎えたグループステージ最終戦は、イスラエルに1−2で逆転負け。数的優位に立ちながらも残り15分で2失点。土壇場でノックアウトステージ進出がほぼ潰えた結果に対して、松木は次のように話していた。

「やっぱり勝負に対する気持ちや、最後に足が伸びてくるところは、日本と海外の差。まだ終わっていないですけど、しっかり個人個人が自チームに帰った時に見つめ直して、レベルアップしていけるようにしていきたい」

 最終的にチームは他グループの結果を受け、グループステージ敗退で帰国の途についた。しかし、真剣勝負の場で得た経験は今に生きている。厳しい戦いを味わってきたからこそ、今大会は心に余裕を持ってプレーができていたからだ。
 
「今大会、自分はすごく気持ちの面で楽にいけている。それはU-20のアジアカップやワールドカップを経験したからこそで、自分にとってのプラスアルファの部分」

 紆余曲折がありながら、定めたチェックポイントを通過した。しかし、今大会はまだ終わっていない。アジア・ナンバーワンの称号を掴む戦いが残っている。松木は3年前の言葉を踏まえ、決勝に向けて想いを紡いだ。

「ずっと選ばれたいと思っていたし、やっぱり自分は本当にこの年代で優勝をしたい。その想いがありながら、自分が考える過程では最高のところまで来ているので、あとは目に見える結果にこだわっていくだけ」

 泣いても笑っても、あと1試合。全ての力を出し切り、松木は結果を求めて最後の戦い、ウズベキスタンとの決勝戦に挑む。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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