4月に開幕した高円宮杯U-18プレミアリーグEAST。東日本の強豪12チームがしのぎを削るなか、好発進を見せているのが昌平高校だ。

 5月11〜12日の第6節時点で、3勝2分1敗の勝点11で3位につけており、「今季はプレミア制覇も狙えるのではないか」と関係者の評価が高まっている。

 今年の3年生は、2021年12月に行なわれた第33回高円宮杯全日本U-15サッカー選手権で準優勝したFCラヴィーダ出身者が中心。同ファイナルのサガン鳥栖U-15戦で1点を奪った山口豪太が10番を背負い、チームをけん引している。

 全国屈指のタレント集団を率いているのが、今年2月に指揮官となった元日本代表の玉田圭司監督だ。柏レイソル、名古屋グランパス、セレッソ大阪、Vファーレン長崎で23年間のプロキャリアを過ごし、2006年ドイツ大会、2010年南アフリカの両ワールドカップにも参戦した彼は、2021年末に現役を引退。

 その後は自身がプロデュースするサッカースールの運営を行なう傍らで、長崎のアカデミーや年代別代表などで不定期に育成年代を指導していたという。

 そして2023年4月には昌平のスペシャルコーチに就任。藤島崇之前監督、村松明人コーチ(FCラヴィーダ監督)、関隆倫コーチら同校スタッフには習志野高校時代の同期がズラリと並んでおり、共通するサッカー観を持つ仲間とともに10代のトップ選手を直々に指導できるのは、玉田監督にとっては理想的な環境と言えた。

「昨年から毎月1週間ずつ通って、選手に技術・メンタル的なアドバイスをしたり、試合前後のミーティングで話をしたりしていました。その1年間で今の2・3年生の個性や特徴、人間性などをある程度、把握できていた。それは自分にとっても大きな収穫でした」と彼は言う。

 迎えた今年2月。2024年度の活動について話し合う場が設けられ際、玉田監督は「ウチで監督をやらないか」といきなり打診を受けた。昌平側も昨年10月に藤島前監督が退任し、高校選手権は村松コーチが暫定的に指揮を執ったものの、彼のメインはラヴィーダだ。ゆえに、新たな監督を招聘し、指導体制を整えることが急務の課題だったのだ。
 
「他の仕事や家族のこともあるので『いったん持ち帰って考える』と答えましたけど、正式にオファーをもらえたことは嬉しかった。1つのチームを1年間しっかり教えるのは、ものすごくやりがいがあるし、高校時代の仲間と一緒に仕事できるのも魅力でしたね。

 それに昨年1年間の指導を通して、どういう選手がいるかを理解していたし、彼らをいかに組み合わせたら良いチームができるかというイメージも持てた。だからこそ、ぜひ引き受けたいなと思ったんです」と玉田監督は就任の経緯を語る。

 それからの3か月間は、選手をどのように輝かせるかを最優先に考え、模索を続けてきた。彼が選手にアプローチしていくうえで、一番大事にしているのは「お互いをリスペクトし合える関係性を構築すること」。それは彼自身が長い現役生活を送るうえで、必要不可欠だと感じたポイントだという。

「今まで出会った特定の監督のアプローチや、やり方を真似しようというのではなく、数多くの監督の良いところを少しずつ取り入れて、僕らしいスタイルを作りたいと思って始めました。自分は高校の教員じゃないし、一方的に上から目線で何かを教える立場ではない。彼らとは同じ土俵で向き合い、お互いにリスペクトし合って、一緒に成長していける関係になれればいいと思いながらやっています。

 自分のプロ生活を思い返してみても、2010年にJ1制覇した名古屋のピクシー(ストイコビッチ監督)は僕をリスペクトしてくれたし、個性や長所を尊重してくれた。ピクシーはサイドバックの(田中)隼磨や阿部(翔平)ちゃんなんかにはかなり細かく指示していましたけど、僕らアタッカーには特に何も言わなかった。だからこそ、伸び伸びと自分らしさを出せたのかなと思います。

 初めて代表に呼んでくれたジーコにしてもそうですけど、自由を与えてくれる指導者の下では自分自身も輝けたし、チームも機能した。昌平でもそう仕向けたいので、まずは選手を褒めるところから入っています」と、玉田監督は目を輝かせていた。

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 11日のプレミアリーグ・柏U-18戦でも、「選手の背中を押す」という姿勢が色濃く感じられた。昌平は前半から猛攻を仕掛け、エースFW鄭志錫が先制点を挙げる。前半を1−0で終えた。数多くの決定機を外した部分は大きな課題だったが、玉田監督は「ここまでは悪くない」とポジティブな声掛けで自信を持たせていた。

 後半は、「球際と決断だ。そこを徹底的にやればすぐに逆転できる」と指揮官にカツを入れられた柏が巻き返し、昌平は一時、逆転される展開を強いられた。そこでも玉田監督は感情的になることなく、立ち位置やマークの修正を図っていた。

 終始、冷静だった彼が声を荒げたのは、2−3の状況で突入した後半ロスタイムに、決まったと思われた昌平の同点弾がオフサイドと判定されたシーンくらい。そこは元日本代表らしい「勝負への強いこだわり」が見て取れたが、最後まで選手を追い込むような立ち振る舞いは一切しなかった。

 リスペクト重視の姿勢が奏功したのか、昌平は最後の最後でキャプテンの大谷湊斗が同点ゴールを決め、3−3のドローに持ち込んだ。最低限の勝点1を確保したことで、指揮官も安堵感をのぞかせた。
 
「前半の攻め込んでいる場面でもっと点が取れていたら良かったけど、それができないのが今の昌平。そこは明確な課題だし、自分もいろいろ言いたいことはあるけど、やっぱり選手にどうすべきかを考えてもらいたいんです。

 自分で解決できるようになれば、より一人ひとりが大人の選手になれるし、チームも成長できる。失敗はどんどんしていいから、前向きにトライしてほしい。自分の経験を踏まえても、それが一番選手を成長させられる方法だと思っています」

 かつてピクシー、ジーコのもとで、ストライカーとして大きな飛躍を遂げた自身のように、エースの山口ら今年の昌平のタレントたちの底力をどこまで引き上げられるのか。玉田圭司監督の挑戦は始まったばかりだ。

※第1回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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