EURO2024の開催国ドイツで流行している歌がある。大会公式テーマソングの『Fire』ではない。ドイツ代表のある選手をネタにした歌だ。なにがどうウケているのか。ベルリン在住歴20年超の記者がレポートする。

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 グループステージが終了し、29日から決勝トーナメントが始まるEURO2024。開催国のドイツでは「公式テーマソングなんてあった?」と確認したくなるほど、ある選手ソングに人気が集まっています。

 しかも、歌詞に登場する選手は意外や意外(?)センターフォワードのニクラス・フュルクルクです。

 楽曲名はずばり「フュルクルク」。フュルはドイツ語のフューレン(注ぐ、満たす)の命令形で、クルクは陶器で出来たビアマグのことなので、「ビアマグに(ビールを)満たせ」という意味になります。アディトトロ(Aditotoro)とパウロムク(Paulomuc)というインフルエンサーがYouTubeに上げた動画がバズり、ドイツ国内で一気に人気が爆発しました。

 すっかりお酒の回ったドイツ人ファンが、リゾートビーチや居酒屋のBGMとしてガンガン流れてくるこの曲に合わせて「フュルクルク ビールとともに 俺たちは欧州の王様になる フュルクルク ビールとともに 俺たちの夏はこれまでなかったくらい最高になる…」と歌っては踊りまくっています。

 いま、ドイツ代表で一番人気があるのはそのフュルクルクです。神童と称されるフローリアン・ヴィルツやジャマル・ムシアラ、世界屈指のGKマヌエル・ノイアー、司令塔の名手トニ・クロースではありません。2022年のカタール・ワールドカップ直前、ドイツで「やはり(偽9番ではなく)真のセンターフォワードが必要だ」という議論が起きなければ、いまの代表チームにいなかったかもしれない選手です。まるでスターらしくない外見と、チャーミングなすきっ歯が、ドイツ国民に親近感を抱かせているのかもしれません。
【動画】再生回数130万超えの流行歌『フュルクルク』
 フュルクルクがドイツ代表の活動拠点へ電車で向かった際のエピソードも、人気に火がついた理由でしょう。悪名高いドイツ鉄道の混乱に巻き込まれたフュルクルクは、超満員の列車内で卒業旅行中の高校生たちと出くわしました。その賑やかさに苦笑いする人も少なくなさそうですが、フュルクルクはまったく意に介さず、むしろ即席の質問大会を開いて大いに盛り上がったそうです(なぜ、一等車に乗っていなかったのかという謎は残りますが…)。

 そんなフュルクルクはグループステージ3試合目のスイス戦で途中出場し、アディショナルタイムに起死回生の同点弾を決めました。これがドイツのグループ首位通過を確定させる値千金弾になったため、ここぞという時に頼りになる存在としても、さらに人気が出そうです。

 自身をネタにした流行歌について、本人は「面白いよ。正直言うと、ちょっと誇りに思うくらいでね。家族もクールだって言うし、娘も面白がっている」と煙たがるどころか大歓迎のようです。ちなみに、その娘さんが着ているドイツ代表のユニホームには『フュルクルク』とプリントされていません。『パパ』と入っているんです。これもまた微笑ましいエピソードですよね。

 さて、このテーマソングは決勝まで歌い続けられるのでしょうか。ドイツ代表は29日、ベスト8進出をかけてデンマークと対戦します。

文●円賀貴子

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