オランダのファンはにらみつけるようにグラウンドに視線を送っていた。椅子をこぶしで何度も殴りながら怒りの声をあげているファンもいる。攻めの糸口がまったく見えない代表にキレまくってる。

 躍動感たっぷりにプレーするオーストリアとあまりに対照的なオランダは2−3で敗北。ロナルド・クーマン監督は試合後の記者会見で、低調なパフォーマンスに不満を口にし続けた。

「本来はいい守備ができるし、失点も少ない。だが今日はひどかった。非常に悪いスタートだった。守備がよくなく、相手にたくさんのスペースを与えてしまった。アグレッシブさがなく、プレッシャーがなく、ボールロストが多すぎた。2、3失点目も簡単すぎた。相手選手を追わずに簡単にいかせてしまった。2つの状況で罰を受けるだけのクオリティを相手は持っている」

 ゲームの流れを完全にコントロールされた前半は対策なしのようにさえみられた。クーマンは20分過ぎには複数選手をアップに送っていたが、35分にジョーイ・フェールマンに代えて、シャビ・シモンズを投入。フェールマンはあまりのショックにベンチで顔を覆い、ユニホームをかぶってしばらく動けなかった。確かにフェールマンは交代するまでのパス成功率はわずか47%。だが他の選手にもその傾向は同様にあった。
【動画】ファン・ダイクが批判を浴びた失点シーン
 オランダ記者がつっこむ。「そもそもどんなゲームプランで臨んだのか?」と。

「中盤に3選手を配備して、相手の2人に対応することをイメージしていたが、臨んだ通りの試合ではなかった。いいポジションをとれず、1ラインになってしまった。でも大事なのは試合中にコミュニケーションをとることだ。センターバックはもっと考慮しなければ。相手左サイドバックの攻め上がりを止めることができなかった。その点については試合前から話をしていたんだ。オフェンシブ選手が守備にも力を注がないと。選手は多く走ったが、正しいポジションにいなかった」

 確かに、ピッチ上の選手たちがそのクオリティを発揮していたとはいいがたい。給水タイムが設けられたようにかなり暑いなかでの試合になったという背景もある。それでもオーストリアがインテンシティ全開でボールを狩りに来ているのにパスの出口を作り出せず、思うがままにボールを奪われ、奪われた後のことを考えたポジショニングが取れてないから、後追いばかりになる現象がほぼ1試合を通して続いていたら、そもそもの設計図が間違っていたといわれても仕方がない。
 
 後半開始直後にシモンズが運び、コディ・ガクポが仕留めたシーンや、相手DFの間に巧みにわって入り、極めて狭いスペースでも手にボールをあてることなくコントロールして決めたメンフィス・デパイのゴールなど、優れたスキルを持った選手が集まっているのは間違いない。ただ、それだけでは厳しい。

 キャプテンのフィルジル・ファン・ダイクの言葉が重く響く。

「どの角度から見ても悪いゲームをした。もし僕らが偉大なことを成し遂げたいのならば、可及的速やかに何かを変える必要がある。誰かの責任ではない。僕ら全員の責任だ」
 
 クーマンは語る。

「我々は敗退したわけではない。正しい答えを見つけ出し、次戦でもっといいプレーを見せないと」

 どんな答えを見つけ出し、どのようにチームを導くのか。同じようなパフォーマンスではルーマニアとの次戦で敗退する危険性も決して低くはない。

取材・文●中野吉之伴
 
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