◇プロボクシング4団体統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチ 王者・井上尚弥<12回戦>WBC1位ルイス・ネリ(2024年5月6日 東京ドーム)

 番狂わせは、なかった。元世界2階級制覇王者の挑戦者ルイス・ネリ(29=メキシコ)は4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(31=大橋)に6回TKO負けを喫した。東京ドームでは1990年2月11日、世界ヘビー級王者マイク・タイソンが伏兵ジェームス・”バスター”・ダグラスにまさかのKO負けを喫していたが、34年前の再現とはいかなかった。

 “悪童”は初回から東京ドームに衝撃を与えた。選手コールの時点で東京ドームはネリへ大ブーイング。しかしネリはその大ブーイングを跳ね返し、1回に左フックで尚弥からいきなりダウンを奪った。その瞬間に会場は一瞬静まり、騒然となった。

 しかしその後2R、5Rにダウンを喫した。ダメージが残る中で6Rに尚弥の右フックでマットに沈んで立ち上がることは出来なかった。

 試合後に立ち上がったネリは尚弥に駆け寄って勝利を称えた。

 ネリが世界戦で日本人と戦うのは3度目。過去2回は「神の左」元WBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)にいずれもTKO勝ちしたが、禁止薬物への陽性反応に大幅な体重超過と、2試合ともいわく付きの勝利だった。今回はリミットを約500グラムも下回る54・8キロで公式計量をパス。勝てば文句なしどころか「モンスター」撃破で世界に衝撃を与えるチャンスだった。

 体重超過などトラブルが多かったにも関わらず、メキシコに本拠があるWBC(世界ボクシング評議会)のランキングで厚遇されたこともあり、バンタム級とスーパーバンタム級で2階級制覇を達成。21年5月、ブランドン・フィゲロア(米国)の左ボディーを受けて7回KO負けし、プロ32戦目で初黒星を喫しており、今回が2敗目だった。ダグラスと同じ29歳での大金星は実現せず、ヒールからヒーローになることもできなかった。