野球の勝敗は、数値で表わせないもので決まることがある。たとえば、勢い、流れ、運......などなど。広陵(広島)と青森山田(青森)との一戦は、最後まで展開の読めない激闘となった。


タイブレークの末、青森山田に敗れた広陵・髙尾響 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【7回までノーヒットの快投も...】

 終盤まで0対0の投手戦となった。先に点を奪ったのは、先攻の広陵だった。8回表、二死二、三塁のチャンスで、7番打者の白髪零士がタイムリーヒットを放ち、さらにレフトのエラーで計2点を挙げた。

 7回まで青森山田打線をノーヒットに抑えていたエースの髙尾響のピッチングを考えれば、これで勝負ありと思われた。もしノーヒット・ノーランを達成すれば、2004年のダルビッシュ有(東北)以来。そんな快挙も頭をよぎった。

 しかし直後の8回裏、代打で登場した青森山田の蝦名翔人が左中間にチーム初ヒットとなるツーベースを放った。9番打者がバント失敗。これで広陵に流れが傾くかに思われたが、髙尾が1番、2番とつづけてフォアボールを与えて一死満塁のピンチを招く。つづく3番・對馬陸翔(つしま・りくと)のライト前ヒットで2対2の同点に追いついた。

 ベンチで広陵の中井哲之監督は、選手たちにこう言っていた。

「この試合は1点勝負になる。気持ちが強いほうが勝つぞ」

 広陵のキャッチャー・只石貫太が、髙尾のピッチングをこう振り返る。

「よかったところはコントロールです。ストレートのキレもよかった。4まわり目になって、髙尾のボールの軌道に相手が慣れてきたのかもしれません。ノーヒット・ノーランを意識したということもないし、1本ヒットを打たれたからといって動じるようなピッチャーではありません」

 しかし、これまで幾多の修羅場をくぐり抜けてきた高尾にしては、"らしくない"ピッチングだった。

 9回表、今度は広陵がワンアウトからヒットとフォアボールでチャンスをつくり、3番の土居湊大がタイムリーヒット。4番の只石のセンターライナーが好捕されたあと、5番の世古口啓史がセンター前に弾き返して3点差をつけた。

 残るは9回裏だけ。甲子園球場で観戦していた多くのファンは、広陵の勝利を確信したことだろう。ところが、簡単に勝負は決まらない。

 髙尾が先頭打者にフォアボールを与える。つづくバッターが三振したあと、8回に代打でツーベースと放った蝦名がセンター前ヒットで一死一、二塁。9番の関がライト前ヒットでつなぎ満塁。

 ここで1番の佐藤隆樹が左中間にスリーベースヒットを放ち、同点に追いついた。なおも一死三塁、サヨナラの好機だったが、2番がスクイズを空振りし三塁走者がタッチアウト。只石は言う。

「スクイズが来るかもしれないと警戒していました。あの球は外したわけじゃないけど、うまく空振りが取れました。デッドボールになってもいいくらいの気持ちで思いきって内角に構えました」

【昨年夏に続きタイブレークで涙】

 試合は5対5で延長タイブレークに突入した。10回表、広陵は7番の白髪が送りバントを決めて、一死二、三塁。しかし、8番の髙尾はショートフライ、つづく9番の沢田光も三振に倒れ無得点。

 中井監督は、この場面についてこう語った。

「髙尾のスクイズで1点を取ろうとも考えましたが、あまりバントがうまくないし、失敗した時のダメージが大きい。だから打たせました」

 10回裏、青森山田は3番・對馬の送りバントが内野安打になり無死満塁。つづく4番・原田純希が犠牲フライを放ち、勝負は決まった。

 広陵にとっては、昨年夏の慶應義塾(神奈川)戦に続きタイブレークでの敗戦となった。中井監督が言う。

「練習試合の時に、相手校にお願いしてタイブレーク形式で戦うこともあります。いくら練習を積んだとしても、一発勝負のタイブレークは難しい。甲子園は緊張感が違いますからね。このセンバツでは2試合ともキャプテンがジャンケンに負けて先攻になりました。広島に帰ったら、ジャンケンの練習をせんと(笑)」

 1年生の春から名門・広陵の背番号1を背負う高尾のセンバツが終わった。最後の夏まで100日あまりしかない。

 キャッチャーで4番、キャプテンの只石は「また夏に甲子園に戻ってくるために、イチからやり直します」と語った。

 中井監督はこう語る。

「甲子園に出てくるようなピッチャーからは簡単には点が取れません。140キロを超えるストレート、空振りを取れる変化球がありますから、センターを中心に打ち返していかないといけない。今後の課題はいいピッチャーが相手でも積極的に打ちにいくこと、無駄なエラーやフォアボールを減らすこと」

 期待が高い分、髙尾と只石のバッテリーへの注文は厳しい。

「試合をつくることはできる。だけど、勝ちきれてはいません。ものすごく酷な要求をしているのはわかっているんですけど、髙尾には勝てるピッチャーになってほしい。あのふたりが自分の技術以上にチームを引っ張るという高い意識を持って頑張ってくれたら、チームも変わってくるのかなと思います。大切なのは、負けた悔しさをどう生かすかですね」

著者:元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro