ヨーロッパリーグ(EL)準々決勝、ホームでの対アタランタ初戦。リバプールのユルゲン・クロップ監督は、前半を0−1で折り返すと、カーティス・ジョーンズ、ハービー・エリオット(ともにU−21イングランド代表)、コスタス・ツィミカス(ギリシャ代表)を下げ、4日前、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦に先発した3人、モハメド・サラー(エジプト代表)、アンドリュー・ロバートソン(スコットランド代表)、ドミニク・ソボスライ(ハンガリー代表)を投入した。相手にまさかの先制点を奪われ、これはマズいと急遽、本来の主力選手をピッチに送り込んだ。

 ヨーロッパリーグ(EL)準々決勝。相手のアタランタはセリエAで6位のチームだ。直近の5試合は1勝1分3敗と、調子もよさそうではない。EL優勝候補の大本命・リバプールにとって難しい相手には見えなかったため、次戦に照準を合わせた選手のローテーションで臨むのは自然な姿といえた。

 そこに罠が潜んでいた。ホーム&アウェー戦方式とはいえ、トーナメント戦だ。ブックメーカー各社から5番手の扱いを受けていたアタランタは、逆にEL優勝候補の本命チーム相手にチャレンジャー精神を全開にして無欲で向かってきた。試合展開には、この一戦にかける意気込みがそのまま反映されることになった。

 リバプールは、首位通過したグループリーグの戦いには、いわゆるカップ戦要員を送り込んでいた。遠藤航もそのひとりだった。ELのグループリーグの戦いを通して、遠藤はチームのやり方に馴染んでいった。

 そして決勝トーナメント1回戦、スパルタ・プラハ戦は2試合合計11−2という楽勝だった。そのため、アタランタ戦との準々決勝に、高揚感を抱けぬまま臨んでしまったという印象だ。これがチャンピオンズリーグ(CL)の準々決勝なら、気合いの入れ方は違っていたはずだ。ELの準々決勝がどれほどのものか。そこがCL常連であるがゆえのリバプールの弱みなのかもしれない。

【悪い流れに巻き込まれた遠藤】

 想起したのはアジアカップでベスト8に終わった森保ジャパンだ。しっかりと攻めきることができなかった。相手にダメージを与えることができぬまま、ボールを失った――という点で、この日のリバプールと共通する。攻撃に規律を欠いたことが苦戦の原因に見えた。

 左からコーディ・ガクポ(オランダ代表)、ダルウィン・ヌニェス(ウルグアイ代表)、エリオットが並ぶ4−3−3のFW陣は楽観的なプレーに終始した。ボールの奪われ方が悪く、アタランタにつけ入る隙を与えていた。

 実際、リバプールは実際、開始直後の3分、エリオットがボールを奪われ、その流れで決定的なピンチを招いている。マリオ・パシャリッチ(クロアチア代表)の近距離シュートを、GKクィービーン・ケレハー(アイルランド代表)が、顔面で奇跡的に止めたシーンだ。この時点で悪い兆候に気づくことができていれば、トゥーン・コープマイネルス(オランダ代表)、ダビデ・ザッパコスタ(イタリア代表)を経由して、ジャンルカ・スカマッカ(イタリア代表)が決めた前半38分の先制点は、未然に防げたのではないか。

 後半に入っても流れは変わらなかった。リバプールは選手を代えても、調子に乗ってしまったアタランタの勢いを止めることはできなかった。後半15分、先制点と同じような展開から再びスカマッカが決めて0−2とされると、後半37分には中盤でソボスライがボールを安易に失うミスを犯し、パシャリッチに追加点を献上して0−3とされてしまう。緊張感なくフワッと試合に入ったツケが、最後まで響くことになった。


アタランタ戦に先発、後半31分までプレーした遠藤航(リバプール)photo by Reuters/AFLO

 遠藤は後半31分でベンチに下がった。これは前戦、マンチェスター・ユナイテッド戦と同じタイミングになる。いずれも相手にリードを許し、攻撃的にシフトする必要性が生じたことが理由と考えるのが自然だ。実際、遠藤がピッチを去った後、4−3−3のアンカーのポジションには、それまでインサイドハーフを務めたアレクシス・マック・アリスター(アルゼンチン代表)が就いている。展開上、やむを得ない交代といえるが、肝心の遠藤のプレーの出来も、いいものではなかった。チームの悪い流れに巻き込まれた恰好になった。

 前半43分には、横パスをかっさらわれる大きなミスを犯している。後半29分にも、ジョー・ゴメス(イングランド代表)から引き取ったパスをコープマイネルスに狙われ、大ピンチを招いていた。その直後にピッチをあとにしたので、展開上やむを得ない交代として片付けることは、楽観的すぎるかもしれない。10段階で採点するなら5.5。平均点を6とすれば、それをやや下回る評価になる。

【大逆転のカギはモチベーション】

 遠藤は、もともとカップ戦要員だった。クロップ監督が相手との戦力に差があるELのグループステージに、国内のカップ戦に近いコンセプトで臨んだため、遠藤は結果的にELに育てられたという見方もできる。ベルガモで行なわれるアタランタとの第2戦は借りを返す舞台になる。遠藤にとってこのあたりが行き止まりの地点なのか、それとも、それ以上の舞台で活躍可能なのか。正念場を迎えたといっても言いすぎではない。

 リバプールにとって0−3は、さすがに簡単なスコアではない。だが、5シーズン前(2018−19シーズン)のCL準決勝では、バルセロナを相手に第1戦の0−3から、第2戦で4−3にひっくり返した実績がある。

 当時はバルサが断然、格上だった。リバプールはチャレンジャー精神を全開にして、無欲で戦ったことが奏功した。リバプールはその後、決勝でトッテナム・ホットスパーを破り、14シーズンぶりに欧州一の座に輝いている。それ以前の何年間かは、CLでコンスタントに上位を維持していたわけではない。バルサ戦の大逆転劇は、欧州のトップグループへの復帰を意味する勝利だった。

 ただし、今回の相手アタランタは格下だ。モチベーションをどこに見出すか、難しいところだ。それこそが、ELを戦う現在のリバプールに不足している点だと見る。だが、遠藤にとってはELも晴れ舞台に映るはずだ。折り返しの第2戦では、リバプール大逆転劇の立役者になるつもりぐらいの勢いで奮闘してほしいものである。

 なお、準々決勝第1戦のその他の3試合の結果は、以下の通り。

ミラン 0−1 ローマ
レバークーゼン 2−0 ウエストハム
ベンフィカ 2−1 マルセイユ
(左側がホーム)

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki