山本由伸は中6日の登板間隔でここまで1勝1敗の成績 photo by AFLO

ロサンゼルス・ドジャース通信簿 投手編

 ワールドシリーズ制覇に向け、今シーズンのスタートを切ったロサンゼルス・ドジャースだが、シーズンの約8分の1を消化した時点で当初の思惑どおりに事は運んでいない。4月に入ってからの3連戦5カード中4カードで負け越し、23試合を終えた時点で12勝11敗。この状態が続いていくとは考えにくいが、ドジャースに何が起こっているのか。まずは投手陣について分析する。

【先発・ミラーが離脱、リリーフ陣も乱調】

 ロサンゼルス・ドジャースとロサンゼルス・エンゼルスの違いは、選手層の厚さである。

 マイク・トラウト(32歳)、アンソニー・レンドン(33歳)、大谷翔平(29歳)のいたエンゼルスが毎年負け越していたのとは対照的に、アンドリュー・フリードマン編成本部長率いるドジャースは、勝ち越しは言うに及ばず、過去7年間で5度も公式戦100勝以上をあげてきた。勝利への鉄則はお金がないチームでも不変で、フリードマンが立て直した低予算チームのタンパベイ・レイズも選手層を厚くすることで、2008年から13年までの6年間で5度90勝以上をあげた。

 選手層が厚いほうがいい理由は3つ挙げられる。第一に主力選手のケガや疲労などの不測の事態に備えられ、そのうえ競争が激しくなることで選手がポジションを確保するために一層の努力を重ねる。さらにいろんなタイプやスキルを持つ選手を起用でき戦術的な柔軟性も高まるため、優位に立てる。

 2024年、オフに12億ドル(約1800億円)の補強をしたドジャースに早くも選手層の厚さを問われる事態が訪れた。主力投手陣にケガ人が続き、スランプに陥った。

 まず先発投手では100マイル(160km)の快速球を誇るローテーション3番手のボビー・ミラー(25歳)が肩の違和感を訴え、4月10日のミネソタ・ツインズ戦を最後に戦線離脱。サンディエゴ・パドレスとのシリーズでは、12日は2番手の山本由伸(25歳)、13日は5番手のギャビン・ストーン(25歳)、14日は4番手のジェームズ・パクストン(35歳)が先発。15日からのワシントン・ナショナルズ3連戦は、初戦にエースのタイラー・グラスノー(30歳)が先発したが、16日、17日の先発投手起用にはデーブ・ロバーツ監督も頭を悩ます事態となった。ミラーが抜け、山本はメジャーに慣れるまでは一般的な中4日でなく、日本時代と同じ中6日で登板させる方針だからだ。ロバーツ監督は15日に「山本の中4日登板は、しばらくは考えていない」と明言している。

 加えてリリーフ陣も安定せず、12日の試合では昨季途中から加入し役割を果たしたライアン・ブレージャー(36歳。元広島で日本での登録名はブレイシア)が3失点の誤算で延長の末パドレスに敗れ、14日は5投手がトータル14四球を出す乱調で完敗。先発もリリーフも再構築の必要に迫られた。

【苦しい投手陣編成を迫られた4月中旬】

 15日には前日の試合にリリーフ登板して1死しか取れず、3失点で負け投手になったジョナサン・フェイエレイセン(31歳)をマイナーに降格。代わって右腕リッキー・バナスコ(25歳)を昇格させた。

 迎えた15日のナショナルズ戦では先発グラスノーの後、左腕ニック・ラミレス(34歳)とバナスコがリリーフし、ともに2回無失点の好投を見せている。

 ラミレスはニューヨーク・ヤンキースの40人枠(球団がメジャー契約できる選手の上限枠。ベンチ入りの上限枠は26人)から外れたために、トレードで4月2日に獲得した選手。バナスコは去年ひざの手術を受け、5月にテキサス・レンジャーズの40人枠を外れ、やはりトレードで獲得した若手だ。バナスコは90マイル台半ば(152km前後)の速球と縦に割れるカーブが武器で、今季はマイナーリーグの3Aでも4回を投げ8奪三振、防御率2.25だった。こういった他球団で枠からはみ出した選手にドジャースはしっかりアンテナを張っている。

 だが、ふたりは翌16日、そろって3Aに降格となった。メジャーではベンチ入りできる投手は13人限定。契約上マイナーに落とせないベテランが多いため、調子が良くても入れ替えられてしまう。代わりに2021年にトレードで獲得し、ファームで育成してきた右腕カイル・ハート(26歳)を昇格させ、16日に先発させた。ハートは去年9月にメジャーデビュー、今年3月のソウルシリーズ(対パドレス公式戦)でもベンチ入りし、3月に2度登板、複数イニングを投げたが、31日にマイナー降格となっていた。

 ハートは45球の球数制限があったため2回3安打無失点の好投のあと、24球で交代。スイングマン(先発、リリーフを両方こなす投手)の左腕ライアン・ヤーブロー(32歳)がロングリリーフし、勝ちを収めた。この試合ではキャンプでマイナー契約の招待選手だったベネズエラ出身の右腕エドゥアルド・サラザール(25)も40人枠に入れ、ベンチに入れていた。

 17日、そのサラザールを1日で3Aに降格、代わってランドン・ナック(26歳)を昇格させた。ナックは2020年のドラフト2巡指名、昨季2Aと3Aで22試合に登板し防御率2.51、ドジャースのマイナーリーグの年間最優秀投手に選ばれていた。ナックはメジャーデビュー戦で5回4安打2失点と好投している。

【メジャー昇格の若手が刺激になるか?】

 フリードマン編成本部長の当初のプランでは、こういった若手は4月の時点ではまだマイナーリーグにいたはずだ。しかしオフに計画したとおりにいかないのは、メジャーリーグの常。ブルペンについては、昨年24セーブをあげたクローザーのエバン・フィリップス(29歳)とともに、ブラスダー・グラテロル(25歳)とブレイク・トレイネン(35歳)が軸になるはずだったが、グラテロルは肩のケガで60日間の負傷者リスト入り、トレイネンはオープン戦でピッチャー返しの打球を受け肋骨を骨折した。

 ベテランのジョー・ケリー(35歳)は防御率7.27、ブレージャーは5.00の不振。先発投手も5番手のストーンは3試合で防御率6.14と不安定。そのストーンと5番手の座を争っていたエメット・シーハン(24歳)は前腕の痛みで60日間の負傷者リストに。マイケル・グローブ(27歳)はブルペンに回ったが、6試合で防御率6.75だ。

 ドジャースは格下のはずのナショナルズに本拠地で1勝2敗と負け越すなど、直近の5シリーズで4度も負け越した。チーム状態は良くない。しかし先発ではハートとナック、リリーフではラミレス、バナスコが昇格し好投したのが好材料。彼らがチームに良い刺激を与えたことで、不振のベテランも負けじと奮起してくれるだろう。

 2022年に肘側副靭帯再建術(通称トミージョン手術)を受けた元エース、ウォーカー・ビューラー(29歳)も間もなく復帰してくる。ケガ人が戻り、それぞれの調子が上がってくれば、もっと強いチームになるのは間違いない。

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著者:奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hidek