ロッテOB清水直行インタビュー 後編

議論を呼んだ継投について

(前編:今季の佐々木朗希は「過去4年とは別人」  「規定投球回到達が最優先のピッチング」とは?>>)

 4月28日の楽天戦に勝利するまで7連敗を喫するなど、チーム状態が不安定なロッテ。連敗の発端となった4月19日の日本ハム戦では、終盤の継投策についてファンの間でも意見が分かれた。

 3−1と2点をリードして迎えた7回、先発のC.C.メルセデスから3年目の八木彬に交代。八木はフランミル・レイエスにソロ本塁打を許し、その後も連打を浴びて同点に。9回には、横山陸人が押し出し四球を与えてサヨナラ負けを喫した。

 ロッテOBで、2018年、19年にロッテの投手コーチを務めた清水直行氏は、その継投をどう見ていたのか。


4月19日の日本ハム戦から7連敗を喫するなど、苦しい戦いが続くロッテの吉井監督 photo by Sankei Visual

【なぜ勝ちパターンのピッチャーが足りなかったのか】

――議論を呼んだ日本ハム戦では、いわゆる"勝ちパターン"のピッチャーを起用せず、試合後に吉井理人監督は「今日は勝ちパターンのピッチャーで何人か使えない投手がいたので。あと、ブルペンも若い子を育てていかなければいけない」とコメントしました。清水さんはどう見ていましたか?

清水直行(以下、清水) 八木を起用したことに言及するのであれば、「八木には荷が重かったかな」という話になると思いますが、僕が疑問に感じているのはブルペン陣の運用プランです。

 前日は試合がなく、この日本ハムとの3連戦は週末の3連戦だったので、月曜日の22日も試合がなかったですよね。それで「勝ちパターンのピッチャーで何人か使えない投手がいた」という状況になるのが疑問だったんです。6連戦や9連戦で日程が詰まっていた、シーズン終盤でリリーフ陣が登板過多になり肩に違和感がある、といった状況でもなかったでしょうし......なぜ勝ちパターンのピッチャーが足りなかったのかと。

――同試合でベンチ入りしていたのは、八木投手と横山投手のほかに、8回に登板した澤村拓一投手、西村天裕投手、中村稔弥投手、澤田圭佑投手、二保旭投手、国吉佑樹投手でした。今季11試合に登板し、無失点を継続している鈴木昭汰投手はベンチから外れていました。

清水 ブルペン陣の顔ぶれを考えると、経験と実績で劣る八木をあの場面で登板させたのは、期待の表れであり、現場での評価に基づいての判断だったと思うんです。「成長してほしい」という期待を込めての起用だったのでしょうが、裏目に出てしまいましたね。

 それと、たとえ打たれるにしても、"誰が打たれるか"というのはすごく大事だと思います。

――たとえば、リードした試合や同点の試合終盤で投げることが多い、西村投手や澤田投手(ともにひとつ前の登板は4月16日の西武戦)らが打たれるのとでは意味合いが違うということですか?

清水 そうですね。西村や澤田が打たれても、チームは「仕方がない」となるでしょう。また、「この試合は絶対に勝ちにいくんだな」という指揮官からのメッセージが野手に伝わります。それは昨季の実績、現状のピッチャーたちのポジションによるもので、野手やチーム全体もそれを理解しているはずなので。

【重要な「勝負所の見極め」】

――4月19日の日本ハム戦での八木投手は、7回の1イニングを投げて2失点でした。

清水 レイエスに打たれたソロ本塁打は仕方がないとして、その後に繋がれて同点にされている。結果論にはなりますが、追いつかれる前に手を打つべきだったかもしれません。ただ、今季は「ひとりのピッチャーが1イニングを投げ切る」という形でやってきているので、イニングの途中で交代させる準備をしていなかったのかもしれません。そこは、現場を見ているわけではないのでわからない部分です。

 監督や投手コーチは、「このピッチャーをこの試合のここで」とか「この日は休ませて」などといったプランを立てていると思います。でも、ペナントレースは"生き物"なので、プラン通りにいかないことも多々あるでしょう。

――プランの遂行も重要ですが、一方で勝負所の見極めも重要?

清水 勝負所は、前もって設定できるものではありません。「長いシーズンの1試合」と思っていた試合が、シーズン終了後に振り返った時、「あの試合が勝負所だったな」となることも多々あります。なので勝負所の見極めは重要ですし、そういう場面だと思ったらシーズンの序盤であっても、プランを崩して同じ投手を3連投させることもあってもいいのかなと思います。

――吉井監督は日本ハムに3連敗した試合後、「この流れを作ってしまったのは、初戦(19日)の私の継投ミスからだと思う」と話していました。

清水 確かに、悪い流れを作る采配のひとつになってしまったのかもしれません。それと、9回に登板した横山が先頭の清宮幸太郎に二塁打を打たれ、その後に犠打で一死三塁とされた場面。申告敬遠をふたつ出して満塁策をとりましたが、結果は押し出しでサヨナラ負けとなりました。塁を埋めて満塁にすることで野手は守りやすくなりますし、策としてはアリだと思っていましたが、一度相手に傾いた流れを取り戻すのは大変です。

―― 一方で打撃陣に関してですが、チーム得点数68はリーグ5位と得点力不足に陥っています。また、開幕から全試合で先発出場しながら、打率.184、出塁率.215と不振にあえいでいた中村奨吾選手を、4月27日の楽天戦のスタメンから外しました。

清水 中村に限らず、調子が上がらない選手を外す決断をするのであれば「そろそろ......」という時期にさしかかってきましたからね。各チームとの対戦がちょうどふた回りする頃で、今季の選手たちの状態を把握できる時期ですから。

 近い将来を見据えて若手を我慢して使い続ける、といったこともひとつの方向性なのかなと。ソフトバンクでいえば、今季に育成から支配下に登録された川村友斗、緒方理貢、仲田慶介といった若手を一軍のベンチに入れて経験を積ませています。

 ロッテでいえば、友杉篤輝や上田希由翔らがスタメンでの起用に応えてどう成長していくか。戦列に復帰したばかりの安田尚憲がどんな活躍を見せてくれるか。さらに、右膝蓋骨骨折で離脱中の藤原恭大や、右肩の故障明けの髙部瑛斗の復活にも期待したいですし、今後どのようにチームを立て直していくかに注目したいと思います。

【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)

1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。

著者:浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo