U23アジアカップ準決勝、U−23イラク代表戦。日本は2−0で勝利を収めパリ五輪への切符を手にしたが、前半と後半とで、ここまで試合内容が大きく変わる一戦も珍しい。前半と後半を入れ替えてみれば、U−23日本代表は痛快な勝利を飾ったとなるが、実際の展開は「よくない終わり方」と言うべきだろう。イラクが後半のような戦いを前半からしていれば、もっとヒヤヒヤした展開になっていたに違いない。日本は、アジアカップで対戦して惜敗したA代表の、二の舞になる可能性さえあった。

 日本に対し、それまでの4バックではなく5バックで臨んだイラクのラディ・シェナイシル監督は、さぞ後悔しているに違いない。日本を警戒するあまり、日本の3トップに対して5人で対応する作戦が裏目に出たわけだ。後半の途中から、布陣を従来の4−3−3に戻し、攻撃的に変えてきたが、時すでに遅し。日本の勝因を語る際、イラクの守備的な姿勢は見逃せない。

 イラクはあえて後方に人数を多く割く作戦に出たにもかかわらず、前半28分、細谷真大に先制弾を浴び、前半42分、荒木遼太郎に追加点を許した。この作戦失敗が、最後まで尾を引くことになった。


イラクを下し、パリ五輪出場を決めたU−23日本代表の選手たち photo by Kyodo news

 日本は準決勝までの5試合、監督采配においてこの手のミスは犯していない。わかりやすい例は初戦の中国戦で、退場者が出て10人になっても大岩剛監督はプレッシングのスタイルを維持する4−4−1を貫いている。

 3戦目で対戦した韓国もイラク同様、日本を警戒したのか、従来の4バックではなく5バックで臨んできた。結果は0−1で日本の敗戦。その結果、韓国にグループ首位通過を許したが、試合内容では圧倒しており、落胆の少ない、「もう1度戦えば勝ちそうだ」という余韻を漂わせながらの敗戦だった。

【できるだけ多くの選手を起用する意義】

 大岩監督の采配にはブレがなかった。他のチームと比較するとそれは鮮明になる。「絶対に負けられない戦い」である。7大会連続で本大会出場を遂げてきた流れを、ここで途切れさせるわけにはいかないと、目先の勝利欲しさに大人数でゴール前を固める守備的サッカーの誘惑に駆られたとしても、不思議ではない。しかし、プレッシングありきの攻撃的サッカーを貫きながら、五輪出場という成果を得たことに、筆者は大きな意義を感じる。サッカーの理想を見る気がする。

 森保一監督ならば、また違った戦い方をしていたかもしれない。韓国、イラクの監督のように、相手に応じて、時間帯に応じて、プレッシングと非プレッシング、守備的サッカーと攻撃的サッカーを使い分けていたに違いない。日頃からそうしたスタイルを「臨機応変で、賢くしたたかな戦い」だと肯定し、実践してきた。今回、あらためて浮き彫りになったのは、五輪出場を決めたU−23日本代表監督と、アジアカップでベスト8に沈んだA代表監督とのスタイルの違いになる。

 もちろん、森保式でも五輪切符は掴んでいたかもしれない。だが、筆者の意見としては理想形は大岩式だ。臨機応変よりブレない采配のほうが、チームは一丸となりやすい。
 
 選手の起用法でも大岩監督は理想型を貫いた。できるだけ多くの選手を使い、その結果、五輪切符を掴んだ。U23アジアカップは文字どおり、アンダーカテゴリーの大会だ。五輪での成績と選手育成をクルマの両輪のように追求することが、監督に課せられた本来の使命だ。五輪本大会でさえ、その"縛り"は働く。

「日本で先を見据えて戦うことはまだ早い」とは、2021年の東京五輪の後、選手の起用法を問われた森保監督が口にした台詞だが、アンダーカテゴリー世代での短期集中トーナメントで上を目指そうとすれば、これと真逆な発想でなければ可能性は減る。ちなみに前々回、2016年リオ五輪に臨んだ手倉森誠監督は大岩式だった。

 今後、誰が伸びるか定かではないという前提に立つと、チャンスを均等に与える起用法が理想になる。監督のそうした姿勢が選手に伝われば、チームは一丸になる。サッカーは「ノリ」のスポーツだ。精神的にノッた状態でプレーすることが好プレーの源になる。大岩ジャパンの選手たちは、出場した選手すべてがノリよくプレーできていたように見えた。

 ここまで唯一、ノリがいいとは言えなかった細谷も、前戦のカタール戦で挙げた大会初ゴールに気をよくしたのか、先制点のシーンでは鮮やかなターンを決めた。藤田譲瑠チマの縦パスも上等だったが、相手のマーカーをいなすようにクルリとターンし、右足のインサイド付近で冷静に流し込んだ細谷の身のこなしは、それ以上だった。

 藤田は追加点のシーンでもラストパスを決めている。左で粘った大畑歩夢から横パスを受けるや、荒木にダイレクトで送ったラストパスである。中盤に優秀な人材がひしめき、"中盤王国"と言われたかつての日本を彷彿させるかのような、技巧的なパス交換だった。この手のプレーができるのは、やはりアジアのなかでは日本ぐらいではないだろうか。

 また、荒木は面白い存在になっている。4−3−3のインサイドハーフというより、4−2−3−1の1トップ下。FW色、アタッカー色が増した。このポジションの選手に求められるのは、狭いスペースで短時間に高度な技巧を発揮する"瞬間芸"だ。今季のJ1リーグではこれまで6試合に出場し5ゴールを挙げているが、MF色の濃い古典的な10番から、FW化を促進させたことが、ひと皮剥けた大きな要因だと見る。

 細谷の先制点は中央攻撃。荒木のゴールはサイド攻撃半分、中央攻撃半分という感じだったが、やはり日本に不足気味なのは真んなかを突く攻撃だ。今後に向けてチームとして追及すべきは、左右、中央と3つある攻撃のルートをいかにバランスよく突くか、になる。

 いい攻撃で終わることが、いい守備につながる。いい攻撃で終われないと、守備が危うくなる。前半の日本と後半の日本をそれぞれ短く評価すれば、そうなる。

 今後、望まれるのはポストプレーが得意な選手だ。本大会でオーバーエイジ枠を使うなら、ラツィオで復活傾向にある鎌田大地は有効な駒になると見る。これから18人のメンバーにどう絞り込んでいくか。五輪で結果を残したいのであれば、知恵を絞るしかない。

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki