15勝9敗でセ・リーグの首位を走る阪神タイガース。ふたつの引き分けを挟んで7連勝を記録するなど、白星を重ねて貯金を今季最多の6としている。打線が不調だったところから、チームが波に乗れたのはなぜか。かつて大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)の主力選手として活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとしても活動する高木豊氏に、ターニングポイントになった試合や投打のキーマンなどを聞いた。


ここまで14打点を挙げている阪神の佐藤輝明 photo by Sankei Visual

【チームが"弾けた"試合】

――阪神はシーズン開幕後、しばらく打線が低迷していましたが、現在は投打がかみ合う試合が増えてきました。

高木豊(以下:高木) 昨季の阪神の状態に近づいてきましたね。ピッチャー陣は安定していますし、打つほうはもう少し上向いてくると思います。あとは、クリーンナップと木浪聖也がどう機能するか。彼らの打率が上がってくると、昨季と同じ形になると思います。

 ピッチャー陣がいいので、打線は今の状態でも十分ですけどね。2得点以下の試合がしばらく続きましたが(球団ワーストタイの10試合連続)、その状況でもそんなに負けなかったですし(4勝4敗2分)。ただ、勝ったとしても「なんとか逃げきれたな」といった勝ち方だと次の日もしんどいものですが、甲子園での巨人戦(4月18日)で、佐藤輝明が大勢からサヨナラヒットを打って勝ってから雰囲気がガラッと変わったと思います。

――その勝利をきっかけに、チームが上昇気流に乗った?

高木 勝利に対してみんなで"弾けた"という感じですかね。昨季は勝ち越したり、ダメ押ししたときにみんなでワーッとなっていたのですが、今季はそういう展開が少なかったと思うんです。でも、佐藤のサヨナラヒットでみんなが弾けて、チームが前向きになった気がします。そのあと、4月19日からの中日との3連戦も打線が爆発しましたしね。

――昨季のように、打者が選んだフォアボールから得点するシーンも増えてきました。

高木 15点を取った中日戦(4月20日)は相手ピッチャーの出来が悪かったですし、DeNA戦(4月24日)では濵口遥大が6個のフォアボールを出しました。ただ、その伏線はやっぱり阪神打線が乗ってきている、束になって向かってきている、という圧力をピッチャーが感じていたからだと思うんです。

【より勢いに乗るための投打のキーマン】

――打線はもう少し上向いてくるとのことでしたが、キーマンは誰になりますか?

高木 1番の近本光司と2番の中野拓夢が出塁すれば点が入るという形がありますが、結局は佐藤が打ったら楽になります。実際に佐藤は打点が多いですし(リーグ3位タイの14打点)、彼が明暗を握っていると言っても過言ではないです。走者がたまって佐藤に回ってくることが多いから、そこで1本が出ると試合が有利に進められますし、逆に出ないと苦しい戦いになりやすい。

 一方で残塁も目立つのは、たとえば4番の大山悠輔から攻撃が始まって、6、7番に回ってきたときにランナーを還せなかった、8番が敬遠されてピッチャーが打てなかった、というパターンが多い。その点で、やはり木浪の状態が上がってくると大きいです。昨季は下位打線の木浪の打点がポイントになりましたから、木浪がもう少し機能してくると、つながる打線になりますね。

――主に3番を打っている森下翔太選手はリーグ2位の16打点と、勝負所での殊勲打が目立ちます。

高木 ここ一番で頼りになりますよね。毎試合ヒットが出るようになってきましたし、すごく魅力のある選手です。もう少しチャンスメイクも考えてくれると、より怖い打線になるかなと思いますが、出塁率(リーグ5位の.365)もいいですし、チームとともに上昇気流に乗ってきた感じがします。

――ピッチャー陣は安定しているとのことですが、心配な点はありますか?

高木 シーズンが進むにつれて登板過多になるピッチャーが出てきますし、夏場に向けて疲れが出てくるとは思います。ただ、そうなったとしても門別啓人らが控えていますし、ピッチャー陣の層が厚いのでそれほど心配はないです。

 ただ気になるのは、西勇輝があれだけいいピッチングを続けているのに勝ち星がつかないこと(3試合に先発して0勝1敗、防御率1.69)。いくらいい投球をしていても腐ってしまいますから、その前に勝ちをつけさせることが大事。西だけでなく、勝たせなきゃいけないピッチャーには、早く勝ち星をつけたいですね。岡田彰布監督は昨季の疲労なども考慮して、村上頌樹、大竹耕太郎が昨季のような成績を残せるとは計算していないでしょうから。

 その分、青柳晃洋と西に期待しているはずです。昨季もこのふたりは後半に活躍しましたが、シーズン開幕当初につまずきました。今季は西が絶好調で、青柳も昨季ほどは悪くないので、村上と大竹が昨季に挙げた勝ち星を補填したいと考えているでしょう。西と青柳が勝ちを重ねていければ他チームにとっては脅威です。ただ、思うように勝てないことが続くと、常に少しの不安を抱えながら戦わないといけません。

――新外国人のハビー・ゲラ投手、岩崎優投手のダブルストッパーとしての働きはどう見ていますか?

高木 岩崎の精神的な負担がかなり軽減しているように見えます。昨季は湯浅京己が不調で岩崎が大車輪の働きをした。それが「今年もか......」となると、ものすごく精神的に負担がかかると思うんです。なので、ゲラの存在は非常に大きいですし、岡田監督の起用法もうまいですね。

【今季の「ライバル」はどのチーム?】

――開幕して約1カ月経ちましたが、阪神のライバルとなりそうなのはどのチームですか?

高木 中日だと思います。

巨人は2位につけていますが、とにかく打てません。たとえば、走者をためて岡本和真や坂本勇人の一発が出れば大量得点につながりますが、それ以外はビッグイニングを作られる心配があまりない。ピッチャー陣は昨季より整備されて頑張っていますが、ロースコアの試合では1点をどう取るか。そうなると、足のスペシャリストもいる阪神に分があります。

 中日を挙げたのは、甲子園とバンテリンドームという、本塁打が出にくい球場で戦うことも理由のひとつです。今季の阪神は本塁打で勝つ試合も多いですが(チーム本塁打リーグ2位の15本)、お互いの広い球場で、中日のピッチャー陣が本塁打を打たれる想像ができないんです。4月19日からの3連戦では阪神が中日をスイープしましたが、今後はいい勝負になってくるかなと。

――阪神の好調は今後も続きそうですか?

高木 最初に話しましたが、昨季の状態に近づいています。相手チームが勝手にコケている試合も多いのですが、その要因も阪神が好調ゆえかもしれません。それと、阪神の選手たちは体が強く、他チームに比べてケガ人が少ない。なので、今後も安定した戦いを続けていけると思います。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

著者:浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo