ハイアベレージの大谷とブレーブス打線を支えるオズナ photo by AFLO

 ロサンゼルス・ドジャースは5月3日(日本時間4日)から本拠地にて、ナ・リーグのライバルとなるアトランタ・ブレーブスと今季初の3連戦を迎える。ブレーブスはメジャートップの勝率を誇っているが、打撃陣は昨季のナ・リーグMVPアクーニャをはじめ主軸 3人が絶不調。それでもチームのOPS(出塁率+長打率)はメジャー全体トップの数字をマークしている。

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【得点圏打率はそもそも母数が少ない】

 野球の勝利の方程式で打撃陣に求められるのは、適時打だ。ここぞ、というときにヒットを打ち、得点してくれれば、試合の流れを引き寄せられるし、勝つチャンスが高まる。その点から得点圏打率はとても重要な指標となる。

 その得点圏打率で、大谷翔平の数字が.184と低いことがSNSなどで物議をかもしている。「7億ドルの男なのに...」といったところなのか。一方で大谷の同僚、1番打者のムーキー・ベッツの得点圏打率は.522、4番のウィル・スミスは.353、アトランタ・ブレーブスの5番打者マルセル・オズナは.395、2番オジー・アルビーズは.482.6番マイケル・ハリスは.452で、彼らは4月の試合で度々ヒーローになり、ファンを熱狂させた。

 チャンスに強い打者は、米国では"クラッチヒッター(Clutch Hitter)"と呼ばれる。プレッシャーがかかる場面で優れたパフォーマンスを発揮できるから、メンタルが強いとも言われてきた。しかしながら近年、統計的手法で選手・戦術を評価するセイバーメトリクス(Sabermetrics)の世界では、クラッチヒッターという考え方は否定されつつある。というのは、そういったチャンスの状況は試合のなかでは限られており、ゆえにサンプルとしては小さく、運や偶然の要素が大きく影響してしまうからだ。

 過去にクラッチヒッターとして賛美された打者も、打てないときもあったし、キャリア通算で見ると普通の数字に落ち着いていることが多い。大谷の.184は今季の得点圏での成績38打数7安打によるもので、サンプルとしては小さい。ちなみに2023年、ロサンゼルス・エンゼルス時代の得点圏での成績は101打数32安打で.317。メジャー7年間での通算は561打数162安打で.289である。

 今季、大谷が得点圏に走者を置いて気負ってしまっていたのは確かで、打つのが難しい球まで振っていた。そこでデーブ・ロバーツ監督と話し合い、アプローチをアジャストした。大谷は「単純にゾーンが広がっていた。アグレッシブなのが悪いというわけではない。得点圏じゃない場面ではしっかりできているので」と説明している。

 その一方で大谷はトータルでは打率.336、7本塁打、出塁率.399、長打率.618、OPS(出塁率+長打率)1.017とトップレベルの成績。MLBスタットキャストのデータでもバレル率(打球角度と速度からホームランになりやすい打球を放った確率)は1位、今季メジャーで最も速い打球を記録し(119.2マイル=191km)、速度95マイル以上のハードヒットも64本と最も多く打った。だから直接的なヒーローにはなり損ねているが、貢献度はとても高いと評価すべきだろう。

【ブレーブスの主軸3人は深刻な状態だが......】


不振の主軸3人に代わり打撃陣の中心となったオズナ

 深刻なのは、アトランタ・ブレーブスの主軸打者3人だ。ちなみに4月末日までの1番ロナルド・アクーニャの得点圏打率は.222、3番オースティン・ライリーは.171、4番で昨季本塁打王のマット・オルソンは.188である。彼らは得点圏で打てなかっただけでなく、トータルでひどいスランプだ。アクーニャは打率.245、出塁率.366、長打率.318。1番打者として出塁率は悪くないが、長打が打てていない。本塁打1本、二塁打5本だけである。去年は打率.337、41本塁打、73盗塁の大暴れでナ・リーグMVPを獲得しただけに、落差が大きすぎる。

 スポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』のデービッド・オブライエン記者は、不振はスタットキャストで見ても明らかだと指摘している。ハードヒット率、バレル率はキャリア最低の数字で、昨季は三振率が11.4%に減少していたのに、今季は26%とそもそもバットにボールが当たらない。メンタルエラーも出る。4月28日のクリーブランド・ガーディアンズ戦、9回の最後の打者となったため、延長10回は(タイブレークのため)二塁ベースに立たねばならないのに行くのが遅れたことで、先頭打者のオジー・アルビーズはペナルティを科され、カウント0―1からのスタートになっている。

 3番ライリーは打率.226、出塁率.299、長打率.365、OPS.664で、本塁打は2本。オルソンは打率.202、出塁率.317、長打率.385で、本塁打3本である。

 2023年はアクーニャとライリーふたり合わせて91本のホームランをかっ飛ばし、236打点を稼いだが、今年はここまで5本塁打、29打点である。ブレーブスのケビン・サイツァー打撃コーチは「オルソンとライリーは(打撃の)メカニックスが少し狂っているし、アクーニャも昨季のようにはシンクロしていない」と説明している。

 とはいえ、スランプはずっと続くものではない。例えばライリーは打球の質は徐々に上がっている。xwOBAは、スタットキャストのトラッキング技術を用いて、打球の速度、角度、および方向などの情報を元に、打者がどれだけ良いコンタクトをしているかを弾き出す指標だ。実際の打席結果に関係なく、打者の今後の成績を予測するのに有効で、ライリーのxwOBAは4月23日の.316から4月末には.349に向上。そして5月1日のシアトル・マリナーズ戦では、三塁打を含む2安打2打点だった。

 オルソンも結果にはつながっていないが、4月のハードヒット率は57.7%でトップレベルだし、打球平均速度も上位だ。問題は、打球角度が14.4度で自己平均の17.2度から下がっていること。打球がもっと上がってくれば、結果も伴ってくるのかもしれない。

 ブレーブスは主軸3人が不調なのに、4月30日の試合を終えた時点でドジャースに逆転を許すまでは、チームOPS(出塁率+長打率)でずっと首位だった。これはほかの打者が活躍したからにほかならないが、なかでも指名打者のマルセル・オズナ(33歳)はここまで、打率.327、出塁率.400、長打率.636、OPS1.036。メジャー全体で見ても、OPSは3位、31打点は堂々1位だ。

 オズナ、アルビーズ、ハリスらのおかげでブレーブスの得点圏打率は.313で、ドジャースの.262を大きく上回っていた。だが、そろそろ主軸の3人が打たないと、勝利の方程式に狂いが生じてしまう可能性はある。

著者:奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki