公立小中学校の給食費を無償化する自治体が急増していることが、国の調査でわかりました。一方、無償化に踏み出せない地域もあり、格差が課題となっています。なぜ無償化できないのか、その背景を取材しました。

3割の自治体が完全無償化 東京23区は今年度中に

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東京・渋谷区立笹塚小学校でも、給食の時間は自然と笑みがこぼれます。

お揚げが入った「きつねご飯」や北海道の郷土料理「石狩汁」が提供され、元気いっぱいにおかわりする子もいました。

Q.給食どうですか?

児童
「おいしいです」

Q.きょう何回おかわりした?

児童
「今のところ2回です」

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2024年に東京都は、市区町村が負担する給食費の半額を補助する方針を打ち出しました。

これを受け、23区すべてが今年度中の「給食費無償化」に乗り出すほか、多摩地域でも無償化の動きが広がっています。

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文科省が6月12日に公表した調査によると、全国の公立小中学校で完全無償化しているのは、全体の3割の547自治体で、2017年の調査から約7倍に増えました。

「どうして周りはやってるのに」 都の補助があっても難しい

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一方、無償化は難しいという自治体もあります。

国立市の給食ステーション 久保直子 所長補佐
「こちらが煮炊き調理室になります。(国立市立の)小中学校の給食を約5000食作っています。給食費・食材費は決められているので、いただいてる給食費の中でやりくりしている」

東京・国立市内唯一の給食センター「くにたち食育推進・給食ステーション」で作られた給食が市内11の公立小中学校に届けられています。

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国立市では、物価高の影響で高騰した材料費4000万円ほどを公費で負担しています。

ただ、完全無償化する場合、約2億8000万円の財源が必要で、東京都の補助があっても難しいといいます。

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国立市の給食ステーション 土方勇 所長
「(隣の)立川市も(無償化を)やってますし、国分寺市も9月からやります。府中市もそう。国立に住んでいることで、給食費を負担していただいていることに関して、非常に肩身は狭いなと思いますし、何とかしたいなとは思ってはいる」

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国立市では、小学校低学年の場合、給食費として月4000円を保護者が負担することになっています。

来年から子どもが小学校に通う保護者
「兄弟いたりすると積み重なって、家計の負担にもなってくるので、どうして周りはやってるのに、国立市だけ無償化じゃないんだろうと」

地域差がある現状について…

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千葉工業大学 福嶋尚子 准教授
「子供にとってみたら、成長に不可欠な食の権利の格差。国と都道府県と基礎自治体で少しずつ負担を分け合うとか、無償にする枠組みを国が作るべき」

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文科省の試算では、国立・私立を含む全国の小中学校で完全無償化を行う場合、1年間にかかる費用は約5100億円で、文科省予算の約1割にあたる規模になり、財源の確保が課題となっています。

月の平均 小学校1381円・中学校1789円の差 栄養“1割減”も

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藤森祥平キャスター:
それぞれ時代ごとに違う思いをしてきたとはいえ、給食について、いろんな思いがあると思います。

そもそも学校給食法では、調理場の設備や運営経費については自治体が負担するもの。食材費などは保護者が負担するものと分けられています。

全国の公立小中学校で自治体の約3割が完全無償化できるようになってきました。一方で、自治体によって格差が生まれてしまっているということにもなるわけです。

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【給食費(平均月額)】

小学校
・福島県 5314円
・富山県 5311円
・徳島県 5256円
・滋賀県 3933円

中学校
・富山県 6282円
・新潟県 6148円
・長野県 6063円
・滋賀県 4493円
※学校給食実施状況調査(2023年5月1日現在)

給食費の平均月額ですが、小学校で一番高いのが福島県で5314円、一番低いのが滋賀県で3933円です。中学校で一番高いのが富山県で6282円、一番低いのが滋賀県で4493円です。

ただ、県の中でも、無償化してる自治体もあったり、その隣の町では無償化していない自治体もあります。

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そうした中で、物価高による影響も出ています。

無償化をしている大阪市ですが、2023年度の市の負担は69億円でしたが、24年度は77億円になり、一気に8億円も上がったそうです。

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一方で、奈良市では、子どもたちの栄養に影響が出ています。

保護者負担の給食費は、小学校で1食あたり246円、中学校では1食あたり300円となっています。

文部科学省が「給食摂取基準」を定めていますが、物価上昇もあり、4月になって基準に到達できない状況になりました。

基準では、小学生は1食あたり650kcalとされていますが、4月は90.8%で、6月は100.9%となりました。中学生は1食あたり830kcalとされていますが、4月は91.6%で、6月は100%となっています。

6月になって100%になったのは、6月から不足分を公費負担にしたためです。

奈良市の市長は、無償化の考えを示すも、「県や国の補助なしでは厳しい」と話しました。

小川彩佳キャスター:
「給食摂取基準」で1割減と考えるとかなり大きいと感じます。

全国一律の完全無償化に「約5100億円」

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日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
奈良市は、決して子どもを大事にしていないわけではなく、むしろ熱心だと思います。県庁所在地ですけども、大きな産業は観光とお寺で、税収が非常に少ない上に、高齢化した団地が多いです。

“自治体ガチャ”で給食をとっているのに栄養が足りないのは、先進国として恥ずかしいことです。国が何かしら手を打たないといけない。保護者と自治体に任せるのは限界じゃないですか。

藤森キャスター:
一つの象徴かもしれないですね。

小川キャスター:
子どもの学力・体力・学習へのモチベーションにも大きく影響してきます。そこに格差が生じるのも大きな問題ですが、一方で全国で一律に無償化となると約5100億円がかかります。

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日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
「5100億円」という金額は、決して少なくない。例えば、話題の「政党交付金」でも300億円くらいですよね。それをやめたら何とかなるレベルではないです。

一方で、国の税収は70兆円を超えています。2022年度は史上最高になり、23年度も近い水準ではないかと言われています。

株が上がって税収は史上最高水準で、子どもは昔の半分近くまで減っているのに、数十年前に私が給食を食べた頃に比べて、内容が明らかに落ちてる。これはおかしいですよね。

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つまり、70兆円の税収の中で約5100億円ですが、他を削るべきという議論が出てもおかしくないと思います。

少子化で一番困るのは企業だと思っています。人が減り、お客さんが減り、そして従業員が減るという企業です。企業1社で考えると、5000億円の利益を上げている企業はあると思います。かなり下がってきた法人税を少し上げて給食費に回すなどをしたら、企業は全員反対するでしょうか。

受益者負担で考えると、日本の子どもを大事だと思ってるのは親以上に、実は企業・社会ももっと負担をしていいし、政府もそういうことを考えて出していいのではないかと思います。

小川キャスター:
将来の働き手としてですよね。

つくば市長「『無償化』よりも大切だと考えている教育のこと」

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藤森キャスター:
「無償化したいけど、しない」自治体についてです。

茨城県つくば市の五十嵐立青市長は、4月23日に自身のXで「私が『給食費の無償化』よりも大切だと考えている教育のこと」と題して、投稿しました。

例えば、フリースクールを作るなどの「不登校支援」、「先生への支援」、それから「学校建設」など、自治体ごとに差がつくべきものではなく、国が本来支援をするべきだという姿勢をとっています。

日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
つくば市も非常に市民活動に熱心で、奈良市と似ていると思います。町ごとの違いは当然あっていいと思います。

例えば、国が支援する際にベースで100円を出して、給食費に入れない場合には子どもの福祉に使うように自治体に任せる形などで、町のユニークさを生かしつつ、国が底上げを図ることはできると思います。

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藤森キャスター:
13日に林官房長官は「アレルギーや不登校で給食を食べていない児童生徒が相当数存在(30万人弱)」と、無償化にした場合に全員が恩恵を受けられない可能性に触れ、「公平性や国と地方の役割分担など課題を整理していく」と述べました。

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日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
私が答弁担当だったら、こういうことを書くと思います。

例えば、子どもの医療費について、ごく一部しか受益していません。アレルギーのある子どもには別のやり方を考えた上で進めるべきで、林官房長官の発言は理屈としてあまり通っていないと思います。

学校給食費の無償化「みんなの声」は

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NEWS DIGアプリでは『学校給食費の無償化』について「みんなの声」を募集しました。

Q.学校給食 全国一律の無償化 どう思う?

「賛成」…79.4%
「反対」…13.8%
「その他・わからない」…6.8%

※6月13日午後11時37分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは14日午前8時で終了しました

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<プロフィール>
藻谷浩介さん
(株)日本総研主席研究員 著書「デフレの正体」
NYコロンビア大学ビジネススクール卒業