増え続けるソフトウエアを管理しきれない──。SaaS全盛の現代において、そんな企業の問題を解決するスタートアップがMerge(本社:米国カリフォルニア州)だ。Mergeの「Unifid API」を使用すると、SaaS企業は何百ものフロントオフィスおよびバックオフィス向けアプリケーションを自社プロダクトに接続できる。企業内のさまざまなチームで使用されているアプリにとってなくてはならない存在だ。共同創業者のShensi Ding氏に話を聞いた。

目次
SaaS全盛の時代だからこその悩み
大学の同期と創業、共通の問題に直面していた
日本進出「今は時期尚早、数年以内に」

SaaS全盛の時代だからこその悩み

―Mergeはどのような課題を解決しているのですか。

 企業のフロントオフィスおよびバックオフィス部門で増え続けるソフトウエアをひとつに統合するための、APIプラットフォームを開発しています。現在、業務効率化に関するSaaS企業が増え続けていて、これを利用する企業側もさまざまなSaaSアプリに登録しています。例えば、従業員の給与情報や採用関連情報、CRMなどのマーケティング情報、財務情報など、数えきれないほどの情報をストレージしているのです。

 問題は、この情報がサイロ内にとどまったままになることです。 データはテクノロジー間で自動的に共有されないため、情報がバラバラになり、複数のソースを手動で更新する必要があります。これまでは、アプリを利用する企業側が必要に応じてシステムの統合を行っていましたが、時代の変化とともに情報の断片化が進み、各企業のエンジニアがこの問題に割ける労力にも限界があります。システム統合の責任の所在は買い手側から売り手側、つまりベンダー側に移行しているのです。

 そこでMergeはSaaSアプリのベンダーに対して他アプリとの連携を可能にするAPIの「Unified API」を販売しています。Unified APIは人事やCRM、給与システム、プロジェクト管理、ファイル管理など150以上のサービス間で利用可能なほか、エンドユーザーがワンクリックで連携先のシステムにログインできる認証機能も搭載しています。

 また、Unified APIはHIPAA(米国における医療保険の相互運用性と責任に関する法律)やISO 27001(ISMS、情報セキュリティマネジメントシステム)に準拠しています。セキュリティ対応が重要な時代ですが、コンプライアンスへの対策も十分できています。

 iPaaS(Integration Platform as a Service)プロバイダーと呼ばれるサードパーティーは大手も含めてたくさんいますが、Mergeの違いは「第三者に徹しない」こと。SalesforceとHubSpotを連携するという事例で説明するのが分かりやすいです。競合他社の多くは、第三者として両者を連結させますが、われわれはSalesforce、もしくはHubSpotのシステムに入り込み、他アプリと統合できる仕組みをつくってしまうのです。こうすることで、ベンダー側も時間的・金銭的コストを大幅に削減可能です。

Shensi Ding
Merge
Co-Founder
Columbia UniversityでComputer Scienceの学士号を取得後、同大でComputer ScienceのWeb Developerを務める。Credit SuisseやSilver Lakeでアナリスト・アソシエイトとして勤務した後、サイバー・セキュリティ企業のExpanse(Palo Alto Networksが買収)で勤務。2020年6月にMergeを大学時代の友人であるGil Feig氏と共同創業。

―創業から約4年が経過していますが、これまでの成長を示す数字を教えてください。

 現在、無料・有料会員を含めて1万以上の企業・組織がサービスを利用しています。顧客は上場企業から、中小企業まで、幅広い規模の会社が存在します。

 米サンフランシスコ、ニューヨーク、独ベルリンにオフィスを構え、約100人の従業員が勤務するなど、ビジネスは成長していますよ。

image: Merge

大学の同期と創業、共通の問題に直面していた

―Mergeを創業したきっかけは?

 共同創業者のGil Feigと私は同じ大学を卒業した、長年の親友です。2010年代後半に入ると私はサイバーセキュリティ企業で、Gilは人材系テック企業で勤めていました。お互いに身を置く業界は異なりましたが、財務の責任者だった私はチケット管理システム(プロジェクト等のタスクを「チケット」として管理する方法)の統合に、エンジニアリングの責任者だったGilは採用応募者の追跡システムの統合に困っていたのです。

 2人とも同じ問題に、同時期に直面していました。さらに、企業単体でシステムの統合作業をしようとすると、財務面で多大な影響が出ることも、私たちの共通した体験だったのです。この問題を解決できるプラットフォームを開発しようと二人で意気投合し、Mergeを立ち上げました。

―Mergeを利用している顧客からはどのような反応がありますか。

 人事系SaaSソフトウエアを販売する米国系企業の事例をお伝えしましょう。

 彼らは採用や解雇、退職を含む人材情報を管理するソフトウエアを販売しているのですが、採用や退職が発生した際、利用企業側のセキュリティプロトコルを確実に満たす必要があります。このデータ統合作業に、他サービスとの連携が不可欠になっているのですが、Unified APIを同期しているので、50以上の連携作業がワンクリックでできてしまいます。

―Mergeは累計約7,450万米ドルを調達しています。資金の使い途を教えてください。

 プロダクトを磨き続けるための研究開発と人材採用に資金を投じていきます。ただ、シリーズBで調達した資金については、慎重に運用していく考えです。過剰にビジネスを拡大させることはありません。Mergeは、API統合という仕事が大好きなチームで、とにかくこの問題を解決することに集中したいのです。

image: Merge

日本進出「今は時期尚早、数年以内に」

―日本市場をどのように分析していますか。

 先日、日本に行きましたが現地には素晴らしいSIerや地域のテックアクセラレーターがいますね。アメリカのSaaSアプリも多く参入していますし、ハイテク産業も分厚い。

 ただ、日本にいますぐ参入するのは、時期尚早だと考えています。というのも「ソフトウエアのベンダーが、API統合機能を用意しなければならない」というトレンドは、アメリカでもコロナ禍で急速に広まったばかりで日本はまだその段階にないからです。アメリカでも、それ以前は「企業側がアプリを使うのだから、企業側が独自にAPIを統合するべきだろう」という意見が主流でした。ただ、企業が管理・運用するSaaSアプリの数は年々増えていて、すでに自社だけで統合できる余地はなくなってきています。

 日本でも時間の問題で、SaaSアプリ側があらかじめ他アプリのAPI統合を受け入れるようになるでしょう。ベルリンにオフィスを開設したように、数年以内には当社も日本にも人員を送り込みたいですね。

―日本に進出するとして、日本の大企業とのパートナーシップを考えた場合、どのような業界と協業したいと考えていますか。

 まず考えられるのは現地のSIerとリセラーでしょう。他社との協業だけでなく、Merge日本支社で勤務する優秀なカントリーマネジャーも採用する必要があります。「郷に入っては郷に従え」ではないですが、日本でのビジネスの進め方を踏襲したいと考えています。そのため、希望するパートナーシップの形態にもこだわりはありません。

―最後に、向こう1年間に掲げている目標と、長期的なビジョンを教えてください。

 向こう1年間は、カスタマーエクスペリエンス向上をテーマにしています。特に、Mergeではカスタマーサクセスチームにおいて、多くの人材を迎える予定です。

 長期的には、Unified APIを可能な限り大きくしていくことをあげています。現在よりも多くのカテゴリーのサービスを統合できるようになっていきたいですし、あらゆるAPIプロバイダーとよいパートナーシップを結んでいきたいです。

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