SixTONES・森本慎太郎が主演を務めるドラマ「街並み照らすヤツら」(毎週土曜夜10:00-10:54、日本テレビ系/Huluにて配信)。本作は、シャッター商店街でつぶれかけのケーキ屋を営む店主が仲間と偽装強盗を企てるものの、予期せぬトラブルを引き起こしていくコメディー。その演出を務める前田弘二監督と脚本家の高田亮氏、プロデューサーの藤森真実氏に、企画のスタートから現在に至るまでの裏話、そしてドラマの見どころとこだわりについて聞いた。

■企画が固まってない中イレギュラーなスタート

――今回のドラマは企画のスタートからクランクインまで、あまり時間がなかったと伺っています。当時を振り返ると、どのような感じだったのでしょうか?

藤森:まだ何も企画が決まっていない段階で、私のほうから前田監督にお声を掛けさせていただきました。そこから前田さんが高田さんともう一人の脚本家である清水匡さんを読んでくださり、そこからスタートしました。その顔合わせが3月上旬で、クランクインが4月の頭だったので、かなりイレギュラーの進行だったと思います。

前田:本当にゼロからのスタートで、まだ企画が固まっていないのに放送日時だけは決まっているというのは恐怖でした(笑)。ただ、高田さんの脚本が早くて、クランクインしたときには、すでに第6話の脚本ができていて。それはまさに奇跡でした。

高田:最初の一か月は、なんだかフワフワしていました(笑)。でも、物語の全体像が見えてくると勢いに乗れて、前半を書いているときは「2、3時間寝れば大丈夫」という感じだったので、一週間でプロットを書いて、一週間で脚本を書くというペースでやっていました。たぶんハイになっていたんでしょうね(笑)。

■監督から生まれた“偽装強盗”のアイデア

――主人公の正義たちが行う“偽装強盗”のアイデアは、どういったところから出てきたのでしょうか?

高田:最初、監督から「シャッター商店街の人が偽装強盗をやって、店を立て直すかと思ったら、集まった人たちがポンコツばかりでトラブルが起こる」みたいなコメディーをやりたいという話をいただきまして。監督は長い付き合いで、前々からクライムコメディーをやりたいという話をしていたんですよね。

前田:そうでしたね。高田さんとは22、23年の付き合いですから。

高田:そのときは映画で考えていたのですが、ドラマになると長い話が必要になるので、1店舗の偽装強盗トラブルで10話も持つのかな?という不安はありました。そうしたら、監督から「街を巻き込む騒動になればいいんじゃないか」というアイデアが出てきて、それなら街全体を日本の縮図のように表現できるんじゃないかと。街を牛耳っている商店会長が自分の仲間だけを優遇しているとか、今の日本の現状を映すことができたら面白いと思い、そこから弾みがつきました。

前田:コメディーなのか、シリアスなのか、どっちに進むかわからないストーリーになっていますよね。とにかく時間がなかったので、ストーリー展開で人間をしっかり見せる物語は難しいけど、登場人物がどう動くのか分からない作りなら、この企画はいけると思いました。街というワンシチュエーションで物語を考え、商店街のアーケードだったら雨除けもできるし、いろんな条件がうまく重なって、今回の物語になりました。

高田:でも、制作時間が短いからこういうふうにしか書けなかったという感じはほぼなく、本当に自由に書いています(笑)。偽装強盗が題材になっていますが、登場人物は本当に悪いヤツなのではなく、ただポンコツなだけ。そんな連中が右往左往していたら、すごく人間味のある話になるのではないかと思いました。

前田:あと、人が物語に逆らっている感じがありますよね。例えば、ボケとツッコミで言うと、ボケの人が出てきたと思ったら、次の回ではツッコミの側になっていたり。一人一人のキャラクターがつかみきれない感じがあって、僕も途中から脚本を読んでいるというよりも連載漫画を読んでいるような「次はどうなるんだろう」というワクワクがありました。

高田:これも監督とよく話すんですけど、コメディーの場合、本人はマジメに本気で生きているだけなのに、それを傍から見ると笑える状況になっていることが多くて。今回のドラマも正義(森本)と彩(森川葵)の夫婦関係のシリアスパートを入れることで、よりおかしみが深まったように思っています。

前田:笑えるのもコメディーですけど、それが笑えなくなるのもコメディーならではですからね。おかしくてバカにしていたものが逆に感動的に見えてくるというのもコメディーですし、いい意味でツッコミどころ満載なのもこのドラマの良さだと思います。

■“周囲とズレてるキャラクター”へのこだわり

――登場人物たちの掛け合いがとても楽しい作品になっています。ポンコツなキャラクターが多いのは、高田さんのお好みでしょうか?

高田:いや、前田監督は自主映画時代からおかしな人を登場させないとOKをくれないんですよ(笑)。人と違った尺度で生きている人、それが周囲とは決定的にズレている人が好きなんですよね?

前田:周りにとっては大きいことだけど、本人にとっては小さいことだったり、周りには小さいことだけど、本人にはとても大きなことって、普通にあることだと思うんですよね。みんなどこか偏っているはずだと思うから、映画やドラマではそれを極端にした人物を登場させたいという思いがあるんですよね。ただ、毎回変なことを言わないといけないから、書くほうは大変だと思います(笑)。

高田:毎回、ヘンな人を考えないといけないのは、もう地獄ですよ(笑)。でも、僕も現実は窮屈だから、映画やドラマではそういうことに縛られずに自由な人を観たいという欲求があるので、そこは監督と同じなんですけどね。

■主演の森本慎太郎は「太陽のような方」

――主人公の正義に森本さんをキャスティングされた理由を教えてください。

藤森:まず脚本があって、主人公は普通にそのへんの商店街にいそうなお兄ちゃんみたいな方がいいなと思っていました。森本さんは以前、弊社のドラマ「だが、情熱はある」(2023年日本テレビ系)に出演していただいたことがあり、演技力がすばらしいのはわかっていましたし、森本さんには身近にいるお兄ちゃん的な感じがあると思ってので、オファーさせていただきました。

前田:森本さんは太陽のような方で、現場をすごく明るくしてくれるんですよね。周りに気を遣わせない人でもあるし、本当に気持ちのいい人だと思います。役においても、森本さんの資質というか、持っている柔らかさみたいなものがいい具合に役に溶け込んでいる感じがしますね。

高田:森本さんは正義にぴったりですよね。

前田:今回のドラマにはクセモノ的なおかしな人ばかり出てくるんですけど、森本さんにはそれを無理なく受け入れられる許容範囲の広さがあって。「どんな人が来ても大丈夫」と思わせてくれる安心感と明るさがあるのが森本さんの俳優としての魅力だと思います。

高田:第3話で正義がスナックから帰ってきた彩を迎えるシーンがあったと思いますが、僕はあのときの森本さんの表情に感動しました。「僕は仕事を楽しんでもらいたいと思ってる」と言いつつも、本当は彩がスナックで働くのは、正義としてはイヤなわけじゃないですか。でも、仕事を楽しんでもらいたいという気持ちもウソではないし、その二つの感情に揺さぶられるお芝居はコントロールが難しかったと思いますが、それが本当にすばらしかった。森川さんのお芝居もすばらしくて僕は観ていて泣いてしまいました。

――主人公に正義という名前をつけたのには理由があるのでしょうか?

高田:最初に名前を決めるときに、皮肉に聞こえるような名前がいいんじゃないかと思っていました。偽装強盗という悪いことをやる人の名前が正義だなんて、まさに皮肉ですよね(笑)。今後、正義は名前のとおりに“正義”の方向に向かおうとしますが、それもだんだんわからなくなって、どうするのが一番正しいのかに悩む展開になっていくと思います。

■第5話は人間模様が色濃く出る物語に

――ビリヤード場の店主で、正義たちと一緒に偽装強盗をする荒木役の浜野謙太さんは、監督と高田さんは映画「婚前特急」(2011年)からのお付き合いだと思いますが、浜野さんの俳優としての魅力をどういったところに感じられていますか?

前田:ハマケンさんには森本さんとはまた違ったスター性があって、その場をポンとひっくり返してくれるようなパンチ力がある方だと思います。森本さんの出演が決まったときに、森本さんとハマケンさんなら面白くなりそうだという予感がありましたし、実際、現場でも二人はすごく仲良くて、正義と荒木の空気感が出来上がっています。でも、本来、荒木のように調子に乗ると面白い人は、演じるのがすごく難しいんですよ。ハマケンさんはそれをうまく演じてくださっていて、やっぱり荒木に向いていたなと思いました。

――これからドラマは後半戦に向かっていきます。5月25日(土)放送の第5話の見どころを教えてください。

前田:第5話は、正義と彩の夫婦の話がメインになっています。あと、街を牛耳る大村親子(船越英一郎、伊藤健太郎)と正義の関係も描かれているので、この二つの人間模様が色濃く出ている回だと思います。

藤森:第1話の冒頭シーンの回収もありますよね。

前田:そうですね。これまでに比べると渋い回にはなっているのですが、この物語がどこに向かっていくのかがはっきりする回でもあるので、ぜひご覧になっていただければうれしいです。

取材・文=馬場英美