「番付の価値」を取り戻せるか。大相撲夏場所は5月12日に東京・両国国技館で初日を迎える。3月の春場所は幕内尊富士(25=伊勢ヶ浜)が110年ぶりの新入幕優勝を果たした一方で、大関陣はV争いから脱落するなどふがいなさが目立った。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(40=本紙評論家)による連載「がぶりトーク」では、2週間後に迫った夏場所を展望。失地回復を目指す大関陣に奮起を求めた。

【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 3月の春場所では新入幕の尊富士が優勝し、幕内2場所目の大の里が千秋楽まで賜杯を争いました。今度の夏場所でも、この若手2人に注目が集まると思います。尊富士は、まずは春場所で痛めた右足首をしっかり治してほしい。新小結の大の里は、スケールの大きな相撲が上位でどこまで通用するか、楽しみです。

 一方で、先場所は大関陣のふがいなさが目立ちました。特に、霧島は5勝10敗と振るわなかった。大切なことは、この経験を次にどう生かすか。春場所の霧島を見ていて感じたのは、やはり受けに回ってしまうと勝てないということ。自分から先に攻めて、うまくさばきながら得意の形に持ち込む相撲が見られませんでした。

 今回は陸奥部屋から音羽山部屋へ移って、初めて迎える場所。師匠の音羽山親方(元横綱鶴竜)は、陸奥部屋時代の兄弟子でもある。その師匠に改めて精神面や技術面を学ぶことは、自分の相撲を見直す上でも良いきっかけになるはず。もともと人一倍、稽古熱心で地力がある力士。環境が変わって心機一転、復活した姿を見せてもらいたいですね。

 豊昇龍は11番勝った半面、立ち合いで変わり気味に動く相撲が何番かありました。運動神経は抜群だけど、まだ相撲の形がはっきりせず、小手先の相撲に走りがちなところがある。かつて日馬富士関は体格で勝る相手を圧倒的な瞬発力とスピードで翻弄し、横綱にまで上り詰めました。豊昇龍も軽量の力士ですが、もっと地力をつけて誰にも負けない武器を見つけてほしい。

 貴景勝は残念ながら、先場所は途中休場となりました。かつての鋭い当たりが、持病の首痛などの影響で影を潜めてきている。ただ、これまでに何度も試練を乗り越えて、昨年は2度の優勝を果たしました。力士なら誰もが何らかの故障を抱える中で、ケガとの付き合い方を熟知している力士。初日までに体調を整えて、力強い押し相撲を取り戻してもらいたいですね。

 琴ノ若改め琴桜は、新大関の春場所で10勝。常に2桁を勝つ安定感がある一方で、念願の初優勝を果たすためには、あと何番かの上積みが必要になる。先場所も尊富士や宇良など平幕力士に取りこぼしがありました。いつも本人に言っているのは、普段の稽古から格下の相手につけ入る隙を与えないこと。その点では、まだ物足りなさがある。先代師匠のしこ名を継いだ今場所は、これまで以上に稽古場で厳しさを出して本番を迎えてほしいと思います。

 上位陣にとって、春場所は新入幕の力士に独走を許して優勝をさらわれる格好になった。4人の大関は、それぞれ内心で期するものがあるはず。夏場所こそは、看板力士にふさわしい活躍を期待したいですね。それではまた!