昨年暮れに藤岡康太が競馬を教えてくれたスペンサーバローズが勝利
昨年暮れに藤岡康太が競馬を教えてくれたスペンサーバローズが勝利

【蛯名正義コラム】東スポ読者の皆さま、1か月のご無沙汰でした。調教師の蛯名です。

 4月の蛯名正厩舎はスペンサーバローズが20日の東京1勝クラスを勝ってくれました。歯がゆい競馬が続いていましたが、今回は(坂井)瑠星が見事な手綱さばきで勝利に導いてくれました。

 1勝クラスで足踏みが続いていた同馬に進境が見られたのは昨年12月の中京戦。結果は6着でしたが、当時テン乗りだった(藤岡)康太が後ろで脚をためる競馬を教えてくれたのが大きかったんですよね。その康太が先月10日に亡くなって、迎えた今回のレース。腹帯に康太のイメージカラーであるピンクのゴムを着けて送り出したのですが…。もしかしたら彼が背中を押してくれたのかもしれません。

 その康太の落馬事故(4月6日)もそうですが、先月はたくさんの落馬事故があって、(吉田)隼人も大きなケガを負いました。元ジョッキーの先輩として後輩たちに言いたいのは、「防げる事故はできるだけ防いでほしい」ということです。馬の故障とか、ゲートとか、なかなか避けられないアクシデントは存在します。しかしジョッキー同士がお互いに注意をすることで避けられる事故というのも存在するのです。

 自分は現役時代、かなり口うるさく後輩ジョッキーたちに危ない騎乗について注意をしてきました。そんな私のことを面倒な先輩だと思っていた後輩もいたことでしょう。でもたとえ周りから嫌われたとしても、岡(潤一郎)や玉ノ井(健志)のように落馬事故で亡くなる後輩を、自分は見たくなかったのです。それだけに今回の康太の件は本当に残念だし、元ジョッキーとして責任も感じます。

 現役では(川田)将雅がよく危険な騎乗について注意喚起をしていると聞きます。素晴らしいと思います。後輩にとっては口うるさく感じたり、面倒に思うこともあるでしょう。でも取り返しのつかない事故が起こってからでは遅いのです。

 競馬というのはゲートを出て、無事に帰ってきて初めて成立するスポーツです。落馬事故があっては、馬主はもちろん厩舎関係者も、牧場も、もちろんファンも、誰も幸せになりません。まずは安全に。そのうえで着順を競うのです。特にスローで流れることが多い欧州の競馬と違って、日本はスピード競馬ですから、より注意が必要なんです。

 全人馬が無事に――。当たり前のようでいて簡単ではないことですが、そんな競馬が続いていくことを願っています。

著者:藤井 真俊