このようなバイアスや、人の思考のクセがどのような行動を引き起こすかを研究したり、分析したりする学問が行動経済学であり、その思考のクセを活用して行動変容を促そうと考えたのが「ナッジ理論」となっていったのです。

次に「ナッジ理論」を活用した英国の取組みを紹介します。

英国では、長年たばこのポイ捨てが街の環境を害していることに悩んでいました。そこで、ある環境団体がナッジ理論を活用したキャンペーンを行ないました。

サッカー界のスーパースターであるメッシとロナウドのどちらが最高の選手か、2人の名前を入れたゴミ箱(吸い殻入れ)にたばこの吸い殻を入れて投票するというものです。

サッカーファンがポイ捨てをやめた理由は

どちらのファンも、応援する選手のゴミ箱に吸い殻を入れていくので、たばこのポイ捨てが減りました。ゴミ箱への「投票」が、環境改善につながったのです。

サッカーファンの行動を行動経済学の視点で分析し、思考のクセ(自分が応援する選手が世界一と思っている)から、「投票」というちょっとしたきっかけを与えることで、行動を変えた(ポイ捨て→ゴミ箱に入れる)のです。

この投票は、街の環境が改善される社会的に望ましい行動です。ナッジ理論は、その人の利益になることや社会的に望ましい行動へ変容させることが、基本的な考え方です。

逆に、実は本人の利益にならないことや、望ましくない行動への変容を促すもの(不必要なものを購入してしまう)は、ナッジではなく、スラッジ(sludge:下水の悪臭)と言います。ナッジ理論を活用する際には、その人にとってよりよい選択をしてもらうためにあるのだということに留意しましょう。

ここまで、ナッジ理論について説明をしてきましたが、ナッジを実際に活用するのは難しいと感じる人もいるでしょう。

ナッジを活用するためのポイントを、英国のBIT(英国政府内の省庁と連携している専門チーム)が、「EAST」というフレームを提唱しています(図表1)。

(『企業実務4月号』より引用)

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