さまざまなストレスを抱え、生きづらさを感じるわたしたち。その根本には、テクノロジーが発達した現代社会と、わたしたちの脳と身体、精神との間のミスマッチがあります。

いま、「ケア」に注目が集まるのはなぜか? 

教育者、哲学研究者である近内悠太氏が「ケアや利他の概念」を哲学的に掘り下げた新刊『利他・ケア・傷の倫理学』より、内容を一部抜粋して紹介します。

進化したサピエンスが、なぜ生きづらいのか?

なぜ僕らはこれほどまでに生きづらいのだろうか?

ひとは日々、人間関係に悩み、自身の健康を気に病み、将来に対する漠然とした不安を抱え、過去の恋愛や性に関する傷を抱えています。

「猫になりたい」とか「鳥になりたい」と思ったことはないでしょうか?

ふと、すやすや眠る猫を見たりすると、「猫になりたい」と思ったりするのは、猫が僕らの持っているような人間的な悩みや不安と無縁に見えるからでしょう。

ここに謎があります。

なぜ、人類はこれほどまでに生存に関する問題を抱えているのでしょうか?

あらゆる生物は環境に「適応」し、進化してきたといいます。

現代を生きる僕らは、かつての過酷な環境においても淘汰されず、生き延びてきたサピエンスたちの末裔のはずです。

猫よりも高等で社会的な能力を持つはずのサピエンス。にもかかわらず、なぜ僕らは悩みと不安を携えながら生きてゆかなければならないのか。