例えば、スターバックスは、元CEOの岩田松雄が指摘する通り、無料WiFiや一人席、座りやすいソファなどを設けることで、長時間利用に対して寛容な姿勢を見せている。

また、コメダ珈琲店は、早朝から深夜まで営業することで、それぞれの時間帯の顧客がある程度長時間いても全体として回転率を高めることのできる仕組みを取っていて、「だらだらいる」ことがある程度は許される空間だといえる。

コメダ珈琲店 回転率を高める工夫が、消費者に気を遣わせない状況を生み出した(筆者撮影)

実際、週末に渋谷などに行ってみると、どこのスタバも行列ができていて驚く。現在、渋谷周辺には17ものスタバがある。大規模な再開発に伴って誕生した商業施設のほとんどにスタバは入っているが、それでもまだまだその供給が足りていないのは、渋谷に遊びに行く人なら感じることだろう。

「渋谷モディ」は、その良い立地からは考えられないほど空いていることでおなじみだが、4階の奥にあるスタバだけが混んでいる。席数119もある、大型店であるにもかかわらずだ。

このような、「カフェの勃興」「カフェブーム」を感じるたびに、筆者は思うのだ。こうしたチェーン系カフェが増えてくるのに伴って、ファミレスで「だらだら」していた人々が、カフェに移っていったのではないか、と。『THE3名様』の舞台は深夜のファミレスだったが、現代の若者が「だらだら」とおしゃべりするのは、チェーンのカフェになってきているのではないかと。

「ファミレス文学」はどこに行くのか

コメダ珈琲店は、店内全体を木目調にして、どこか落ち着く雰囲気を演出している。これは、コメダ発祥の名古屋の喫茶店をモチーフにしているというが、こうした演出が「ずっといたい」「落ち着く」といった気持ちを消費者に抱かせている側面もあるだろう。

また、スタバも、全体的にゆったりとした店内空間の演出をしている。それに加えて、スタバの場合は、どこか「スタバにいそうな人々」が、そこに集まっているということもあって、ある種の同族意識を、そこにやってきた人に抱かせる。それが、その場にいる人たちの心理的な安全性を作るのかもしれない。

【画像】時代に合わなくなっていくファミレス…何に変わる?(13枚)

いずれにしても、こうしたカフェ空間の「だらだらいられる感じ」は、もしかすると現在のファミレスにはなくなってしまったものなのかもしれない。

『花束みたいな恋をした』が「ファミレス文学」だとすれば、今後は「チェーンカフェ文学」なるものが誕生するかもしれない。「だらだらできる場所」という側面から、ビジネスの隆盛を見ることが可能なのではないかと、筆者は考えているのだ。

著者:谷頭 和希