区の「保存樹木」に指定されていた、20メートルものケヤキの木。近隣住民に癒やしをもたらしてきたその大木が、ある日突然、伐採されることになった。所有者が保存樹木の指定を解除し、マンション開発されることになったのだ。

たかが1本の木、にすぎないかもしれない。指定を解除した所有者にも、マンション事業者にも法的な落ち度はない。それでも、この1本の木の話は今の日本における街づくりの課題を映し出している。考えてみたい。

ある日突然伐採が始まった

「私も、まさか切られることはないだろう、と思っていたんです。それが、ある日いきなり目の前で枝の伐採が始まっていて……」

東京・世田谷区に住む飯田りえさんは、そのときの「衝撃」を振り返る。

閑静な住宅街の一角にある敷地には、かつて大きな邸宅があり、その敷地内に、20メートルをゆうに超えるケヤキの巨木は立っていた。飯田さんの自宅からはそのケヤキの木がよく見え、都会でありながら自然豊かなこの地域での暮らしを飯田さん一家は楽しんでいた。

ところがある日、飯田さんは窓の外の光景に目を疑う。ケヤキの木に人がよじ登り、チェーンソーを手に枝をバサッバサッと切り落としているのだ。4月半ばのことだ。