なかなか利用率が上がらない『マイナ保険証』。この状況を打破しようと厚生労働省が打ち出したのは最大20万円の支給です。ただ、そのお金が支払われるのは、医療機関。一体なぜなのでしょうか。


■利用伸びない“現状”は…

11日に訪れた東京都内の歯科医院。受付には、マイナ保険証の読み取り機がありますが、使われる様子はありません。受付には「これまで通り、保険証を持参してください」と書かれたポスターが貼られています。しかし、紙などの現行の保険証の発行は原則12月に終了する予定です。

患者
「(Q.今出したのはマイナ保険証、健康保険証)普通の健康保険証です」

結局、11日に受診した患者10人のうち、マイナ保険証を利用した人はいませんでした。全国のマイナ保険証の利用率は先月時点で5.47%にとどまっています。


■“利用促進月間”に現場は疑問

こうした事態に厚労省が打ち出したのが…。

武見敬三厚労大臣
「本年5〜7月までを“マイナ保険証利用促進集中取り組み月間”として、マイナ保険証の利用促進に全力を挙げて取り組みます」

その切り札は、病院などへの一時金です。患者にチラシを配布するなどして、マイナ保険証の利用者数を増やした場合、診療所で最大10万円、病院で最大20万円を支給します。

マイナ保険証の利用増加は見込めるのか。現場からは効果を疑問視する声が上がっています。

松江歯科医院 扇山隆院長
「結局、我々が言ったとしても、それを使うのは患者さん側。患者さんが使いにくいと思えば使わないし、使いたいと思えば使えるし。(Q.今後マイナ保険証の提示をお願いしますと声かけは)一応しますけど、するだけで。別にお金は関係ないし。やはり従来の保険証は残してほしい」

こうした医院にも利用拡大に取り組んでもらおうと、厚労省は躍起です。先月、医療機関などに向けて行われたオンラインセミナーの動画には「高利用率&支援金ゲットのメソッドをお伝えします」と、まるで投資セミナーのようなタイトルが。


■説明求めるも“たらい回し”

厚労省は公立病院に対して、今年11月末までに50%以上の利用率アップを求めています。一方、マイナ保険証の利用者からは説明不足を指摘する声も。

都内に住む、79歳の男性。膝のリハビリに通う病院で、今月から突然、マイナ保険証を持ってくるように言われたといいます。

週5日リハビリに通う男性
「『何これ?』と聞いたら『医師会から連絡が来てそうなったから、私たちには分かりません』という話」

現行の保険証も使えるのになぜなのか。住んでいる区の担当課に聞きましたが…。

週5日リハビリに通う男性
「区役所に行くと『疑問だったら医師会に聞いてください』。医師会は医師会で『パソコン開いたら載っているので、医者はきちっとその通りやっています』厚労省も『パソコンに載っているから開けば出てきます』。(Q.パソコンは持っている)ないです。はっきり言うと、もう諦めです」


■マイナ保険証“利用率”8割の所も

こうした声もあるなか、高い利用率を実現しているクリニックがあります。

受付スタッフ
「8割くらいの方がマイナンバー保険証を利用していただいています」

事務効率も上がっています。

受付スタッフ
「保険証の資格が有効か無効か、今までは目視で確認していたが、オンラインで確認することで正確性も上がったので、以前に比べて受付から検査するまでの時間が短くなったという(患者の)声がある」

院長は2年ほど前から、患者一人ひとりにマイナ保険証のメリットを説明してきました。

大塚眼科クリニック 大塚宏之院長
「まず、マイナ保険証で受け付けすると、患者の薬剤情報と特定健診の結果が見られる。電子カルテなので一緒に患者は見ています。共有できれば医師もミスが少なくなる」

普及には、患者にメリットを実感してもらうことがカギになると指摘します。

大塚眼科クリニック 大塚宏之院長
「導入を増やそうかなと思う先生は出てくる。何人かは。何%か。それでもいいと思う」


■“現行の保険証”今後どうなる?

今年12月2日で保険証の発行は終了します。今、私たちの手元にある保険証はどうなるかと言うと12月1日までに発行された保険証は、経過措置が取られ、最長1年間は有効です。ただ、経過措置の期間中に有効期限が切れたり、転職や引っ越しなどで資格情報が変更となった場合は、その時点でその保険証は失効となり、マイナ保険証を使うことになります。

そもそもマイナ保険証を持っていない人は、それぞれの保険組合などから『資格確認書』が送付され“保険証”として利用ができます。資格確認書の有効期限は最長5年間。厚労省は、この期間に切り替えてほしいとしています。

医療機関への一時金について、マイナンバー制度に詳しい、中央大学の宮下紘教授に聞きました。

宮下紘教授
「政府からだけでは、マイナ保険証のメリットが届かないから“信頼”されている医療スタッフから、患者にメリットをアピールしてもらいたいという狙いがあるのでは。今回の一時金の支給は“バラまき”と言われても仕方ない」

また、利用率を上げていくための課題については、こう話します。

宮下紘教授
「そもそもカードを持ち歩かなければ利用率は上がらないので、マイナ保険証をスマホに搭載して利便性を高める必要がある。今後、政府が主体となってスマホ搭載をどれだけ進められるかが普及のカギとなるだろう」