新潟県魚沼市に湧く、栃尾又温泉は「湯之谷温泉郷」と呼ばれる歴史ある温泉です。上越新幹線の浦佐駅から車で40分ほど。新幹線を利用すれば、東京から最短2時間強で訪れることができます。その中でも「自在館」は3軒残る温泉宿のひとつです。

400年以上の歴史を持つ「栃尾又温泉 自在館」。現代湯治がコンセプトの温泉宿

 温泉好きの私にとって、温泉旅行最大の楽しみは、やはり「温泉」に入ることです。

 周囲の友人に話を聞くと、温泉よりも「食事」を楽しみにしている、と答える人も多くいました。「温泉」と「食事」は、温泉旅行の楽しみツートップですね。その土地ならではの食材を使った料理や名物を嗜み、その土地から湧く温泉につかる。想像するだけでも癒やされる思いです。

 今回は、新潟県にある「栃尾又温泉 自在館」を紹介します。古くから湧く薬効高い温泉と、地元の食材をふんだんに使用した食事が魅力の温泉旅館です。

 新潟県魚沼市に湧く、栃尾又温泉。旧湯之谷村の谷沿いに位置し、周辺の大湯温泉や折立温泉、駒の湯温泉などとともに「湯之谷温泉郷」と呼ばれ、その一角をなしています。

 アクセスは、上越新幹線の浦佐駅から車で40分ほど。新幹線を利用すれば、東京から最短2時間強で訪れることができます。

 開湯は諸説ありますが、西暦700年ごろ、行基により発見された伝説が残り、江戸時代から湯治場として親しまれています。現在は3軒の宿と、3軒の共同浴場がまとまった温泉街で、歓楽的な要素はなく、湯治場の風情を残す静かな雰囲気の温泉地です。

「自在館」は、3軒残る栃尾又温泉の宿のひとつ。約400年の歴史を誇る湯治宿で、館内は上品だけれど気取らない、人のぬくもりを感じられる落ち着いた雰囲気です。「現代湯治」をコンセプトに、13時チェックイン、11時チェックアウトでゆったり過ごせることや、健康的な食事、かけ流しの温泉など、心身を癒すためのこだわりが随所に見られます。

館内には3か所の「貸切風呂」! 山の景色と、かけ流しの温泉をひとり占め

 栃尾又温泉の宿は、基本的には館内にお風呂は持たず、3軒ある共同浴場をみんなで利用するスタイルです。その中で自在館のみ、旅館内にお風呂を持っています。

 自在館のお風呂は、貸切露天風呂「うげつの湯」、貸切風呂(内湯)「たぬきの湯」、貸切風呂(内湯)「うさぎの湯」の3か所。すべて予約貸切制で、受付近くに掲示された予約表の空いている時間に名前を書き込み、鍵をとってお風呂へ向かいます。

 1回の利用時間の45分で、他のお客さんを気にせず温泉を楽しむことができます。私は、すべて1人で利用しましたが、どのお風呂も広々としていて、山々の景色も素晴らしく、ここを単独で貸し切っていることに対して、贅沢に思う反面、申し訳ないような後ろめたいような気持ちもありました。

 お湯は無色透明で、あきらかに水道水とは異なる、ミネラルを感じるワイルドな香りがただよいます。とはいえ、クセのないやさしい浴感で、ほんのりツルスベする肌触りを感じられます。源泉の湯温が30度弱とぬるいため、40度前後まで加温をして湯船に供給していますが、加水や循環、消毒は一切ない「かけ流し」です。

栃尾又温泉のシンボル「したの湯」。 効能豊かな「放射能泉」を堪能できるパワースポット

 栃尾又温泉のメインは、共同浴場である大浴場「霊泉の湯」。「おくの湯」、「うえの湯」、「したの湯」の3か所があり、3軒の宿に宿泊するお客さんが、共同で利用します(男女は時間帯で入れ替え)。

「栃尾又温泉 自在館」の外観

 その中でも、栃尾又温泉のシンボル的な共同浴場が「したの湯」。谷底(地下)にあるため、自在館からは、館内直結の長い階段を下っていきます。

 大きな窓、板目の壁、岩とタイルが配された浴室には、15人ほどが一気には入れそうな浴槽と、2人サイズの小さな浴槽があります。

 30度ちょっとの源泉を、加温・加水・循環・消毒のない「完全かけ流し」で、滔々と湯船に流しています(小さい浴槽は加温)。

 湯温は体温よりも低いぬるめのため、1〜2時間ほどゆっくり長湯するのが、栃尾又温泉の伝統的な入浴法。入った瞬間はヒヤッと冷たさを感じますが、しばらくつかっていると、湯が肌になじんできて、包まれるような感覚に。そのうち、身体の内側からポカポカ感が湧き上がり、温泉と一体化したような夢心地の境地に浸ることができます。

 この日も10人ほどが入っていましたが、皆一言も発さず、黙々とお湯に向き合っています。殺伐としているわけではなく、それぞれが癒やされるために「瞑想」している、静寂のパワースポットのような空間。なんだか、神秘的であたたかい雰囲気でした。

 栃尾又温泉の泉質は、単純弱放射能泉。前述のとおり、無色透明でクセのないお湯ですが、放射能の「ラジウム」を微量に含んでいます。

 放射能という言葉にマイナスなイメージを持っている人もいると思いますが、温泉の放射能は、原発などのそれと、種類や半減期などの違いがあり、人体への悪影響はほとんどありません。

 そのうえ、この泉質は「万能の湯」といわれるほど効能豊かです。「ホルミシス効果」といわれ、細胞に刺激を与え活性化し、体質改善や免疫力アップに良い影響があるとされています。そんな放射能泉の効果を最大限に得るには、加温や循環などはせずに、気体を吸入することがポイントなのだそう。そのため、このような内湯に長くつかることが、その効用を得るには最適です。古くから「湯治場」として栄えてきた所以は、ここにあるのだな、と感じます。

魚沼産コシヒカリ、川魚、野菜をふんだんに使った「素朴なふるさとの味」は絶品!

 自在館の食事は、「健康に還る」ことを目指し、野菜、肉、魚のバランスを考え、郷土料理に組み込むなどを心がけた湯治食です。見た目の派手さはありませんが、地元の食材をつかった「素朴なふるさとの味」。魚沼地方のお宿のため、ベースのお米が「魚沼産コシヒカリ」という、食材エリートエリアの食事を楽しむことができます。

 この日の夕食は、ニジマスの刺身、イワナの塩焼き、鴨鍋、山芋の挽き肉重ね焼き、ピーマンとしらすの鰹あえ、粕汁などが並びます。山あいの宿らしい、川魚メインの料理に舌鼓。魚は新鮮で、お肉はやわらかく、野菜は甘味と旨味が濃く、素材の味を活かすやさしい味付けが絶品でした。魚沼産コシヒカリのご飯は、ふっくらとして甘く、芳ばしい良い香りがただよい、おかずなしで何杯もおかわりしたくなる美味しさです。

 新潟県は酒どころでもあるため、日本酒のラインナップも充実しています。この日は地元・魚沼のお酒「緑川」を別注し、食事とともに堪能。川魚料理との相性も抜群です。デザートの、温泉ゼリーとメロン、オレンジまで、心も身体も喜ぶのがわかる、大満足の夕食でした。

 朝食には、自在館名物の「ラジウム納豆」が出ます。これとご飯の相性はもちろん抜群で、私が今まで食べてきた温泉旅館の朝食で、一番印象に残る美味しさでした。

※ ※ ※

 栃尾又温泉は、都内から最短で2時間強で行ける、週末の温泉旅行にもぴったりな温泉です。

 そこで味わう、温泉旅行の楽しみツートップ「温泉」と「食事」。地元の食材や、名物料理を堪能し、その土地から湧き出した温泉そのものを楽しむ。思い出す(想像する)だけでも、心が幸福感につつまれますよね。温泉も食事も「地産地消」が一番です。