斜め後ろから見た際のルックスがほれぼれするほど美しいメルセデス・ベンツの新型「CLEクーペ」。日本車においては今や貴重な存在となっている2ドアクーペですが、欧州勢、なかでもドイツ車においてはまだまだ健在。その魅力を公道でチェックしました。

クーペは美しさやおしゃれさを楽しむためのクルマ

 息をのむほどの美しさだな……メルセデス・ベンツのニューモデル「CLEクーペ」と初めて対面した際、筆者(工藤貴宏)はそう感じました。

 世の中に存在するクルマは、2種類に大別することができます。そのふたつとは、「実用性を追求したクルマ」と「実用性以外の魅力を求めたクルマ」。

 前者の好例はトラックで、乗用車においても、ミニバンや軽自動車の“スーパーハイトワゴン”などが含まれます。クルマを道具として考えると、実用性を追求するのは正義。我々の暮らしを支えてくれます。

 一方、実用性以外の魅力を追求したクルマの好例はスポーツカー。実用性など一切なくても、最高のドライビングプレジャーを提供してくれるならば、一部のクルマ好きからは大歓迎されることでしょう。

 クーペも同様の存在です。クーペはセダンに近いスタイルを採用しながら、リアシート空間を重視せず、リアのウインドウを寝かせて流麗なフォルムに仕上げた贅沢で優雅なモデルのこと。実用性の高さで善し悪しを判断される存在ではなく、美しいかどうかが肝心です。

 つまり、そのクルマを見た人に「美しい」とか「カッコいい」と思わせる、その存在や空気感がクーペの魅力なのです。実用車とは対極にある存在といっていいでしょう。

 それだけに、クーペはムダな存在と判断されること多いようで、各メーカーも以前のように豊富にラインナップしていません。どうしても生活に必要な存在ではないからです。

 でも、想像してみてください。もしも合理性だけを求めた工業製品しか選べない世界だったとしたら……そんな世の中はきっと、つまらないと思うのです。合理性を気にせず、美しさやカッコよさを求めたクルマを選ぶこと。それを選べる環境にあることこそが贅沢であり、クーペはその選択にふさわしいモデルなのです。

●「Cクラス」と「Eクラス」の両クーペを統合

 メルセデス・ベンツの新しいクーペ「CLEクーペ」は、息をのむほどの美しく、恋に落ちるかのように筆者の心を揺さぶりました。「やはりメルセデスのクーペは美しいな」と心からそう思いました。

「CLEクーペ」は、基本となるプロポーションのバランスがいいためフォルム自体がエレガントなのですが、なかでも目を惹くのがルーフからリアピラー、そしてトランクリッドにつながる流麗なライン。さらに、そんなラインとやわらかく張り出したリアフェンダーの絶妙なハーモニーがたまりません。

 斜め後ろに立ちリアクォーターから眺めると、まるで浮世絵の「見返り美人」のような美しさを味わえるのが、このモデル最大の美点だと思います。

「CLEクーペ」のボディサイズは、全長4850mm、全幅1860mm、全高1420mm。メルセデス・ベンツのラインナップ再編に伴い、これまでの「Cクラスクーペ」と「Eクラスクーペ」を統合したポジショニングとなっています。

 ちなみに「CLE」というネーミングは、かつてメルセデス・ベンツのフラッグシップクーペだった「CL」という名称に、車両クラスを意味する「E」(=セダンの「Eクラス」に相当)を加えた新たな車名です。

 SUVのラインナップが、かつての最上位モデルの車名であった「GL」に、クラスを意味するアルファベットをひとつ加えて「GLA」、「GLB」、「GLC」、「GLE」、「GLS」と呼ばれているのと同じ法則です。

デザインは優雅で美しく走りはなめらかで快適

「CLEクーペ」のインテリアは、エアコン吹き出し口などダッシュボード回りが「Cクラス」に近い雰囲気ですが、そもそも「Cクラス」のコックピットが前衛的な構成なので、エレガントなクーペとの組み合わせでも違和感はありません。

ほれぼれするほど美しいルックスが魅力的なメルセデス・ベンツ新型「CLEクーペ」

 ドアを開けて乗り込むと、最近にしては珍しいほど傾斜の強いフロントピラーが圧迫感をもたらします。しかし、人生で初めて買ったクルマがクーペだった筆者としては、「これこれ、これこそがクーペの雰囲気だよね」と、SUVやセダンとは明らかに違う特別感を覚えます。

 そんな「CLEクーペ」で驚いたのは、リアシートの実用性。大人が無理なく座れる空間になっているのです。広々としていて快適……とまではいえませんが、ヒザ回りも頭上も空間が残り、タイトな印象はありません。伸びやかなルーフラインを採用しながら、よくぞここまで! と感心します。

「CLEクーペ」は、乗り味も快適そのものです。搭載される2リッター4気筒ガソリンターボエンジンは、アクセルペダルを踏み込んでも刺激が高まるようなエモーショナルな特性ではありませんが、日常域がなめらかで、音も静かで心地いいものでした。乗り心地も良好です。

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「CLEクーペ」はスポーティなドライビングを楽しむのではなく、美しさやおしゃれさを楽しむクルマということがよく分かります。

 セダンでもワゴンでもSUVでもなく、あえて今の時代にクーペを選ぶ。特に「CLEクーペ」のようなエレガントなモデルは、人生を優雅に楽しむための格好のツールとなってくれるでしょう。

 日本ではクーペというと、スポーツカーと混同されがちですが、実は両車の特性は異なるもの。スポーツカーの魅力はドライビングプレジャーですが、クーペの魅力は流れる優雅な時間です。クーペとしてのエレガントな雰囲気を楽しむならハイパワーエンジンは不要ですし、ゆっくり走っていても魅力を堪能できるのです。

「CLEクーペ」は、そんなパートナーに最適なモデルであることは間違いありません。人生を最大限に謳歌したい人には、ぜひ味わって欲しい1台です。