派閥を解散すると大見えを切ったのに、なぜその手続きに時間がかかっているのか。ほとぼりが冷めるのを待って、約束を反故ほごにするつもりなのかと疑いたくなる。

 自民党の派閥による政治資金規正法違反事件を受け、岸田首相は1月、自らが率いていた岸田派を解散する方針を示した。首相の判断を踏まえ、安倍、二階、森山の3派も解散を表明した。

 このうち、すでに政治団体の解散届を総務省に提出し、手続きを終えたのは森山派だけだ。

 残る3派は、国会周辺で借りている事務所の契約を解消するのに時間がかかっていると説明している。だが、その気になれば直ちに解約できるはずだ。

 4月中旬には茂木派も政治団体の解散を表明したが、解散時期は決めていないという。

 自民党はこれまで、窮地に陥る度に派閥の解散を掲げたが、時間が経過すると、復活してきた経緯がある。今回も各派は、他派が本当に解散するつもりかどうか、様子見をしているかのようだ。

 長年にわたって派閥が不適切な会計処理を続けてきたことが、政治不信を招いている。その反省と切迫感が全く感じられない。

 派閥の解散時に残った資金をどのように処理するかも未定だ。森山派は所属議員で分配した。「裏金作り」をしていた安倍派では、能登半島地震の被災地に寄付する案が出ているという。

 各派は政治団体の解散に向けた段取りを公にする必要がある。

 「数の力」を背景に、派閥が内閣や党幹部の人事に影響力を行使してきたことは、適材適所の人事を妨げていると言われてきた。

 だが、派閥による人事の調整機能がなくなれば、19人の閣僚や党幹部だけならともかく、議員の適性や希望を踏まえて副大臣26人、政務官28人のほか、国会の委員長などのポストまで振り分けていくのは容易ではあるまい。

 どのような方法で適切な人事を行うのかを示すべきだ。

 総裁選などを通じて各派が切磋琢磨せっさたくますることで、党に活力を生んできたのは事実だ。派閥が首相や党幹部の行き過ぎた振る舞いを牽制けんせいし、政治に緊張感をもたらしてきた側面もある。若手の教育機能も果たしてきた。

 そうした役割を担ってきた派閥がなくなった場合、首相や幹事長に権限が集中する、といった見方が出ている。健全な党運営をどう実現していくのか、自民党の組織改革もまた重要な課題だ。