軍隊・戦車など物々しい“男社会”なイメージの北朝鮮。しかし近年、金正恩総書記の傍で“活躍”する女性たちが増えています。娘・ジュエ氏は後継者なのか?金総書記の後ろで“歩きスマホ”しても許される女性の正体は?北朝鮮情勢に詳しい、龍谷大学・李相哲(りそうてつ)教授の解説です。

「愛するお子様」「尊いお子様」「尊敬するお嬢様」の次は「嚮導(きょうどう)」⁉やはりジュエ氏は後継者なのか?専門家の中でも分かれる見解

父・金正恩氏と式典に出席したジュエ氏

 2024年3月16日、金正恩総書記と式典に出席した娘・ジュエ氏。これまで「愛するお子様」「尊いお子様」「尊敬するお嬢様」など呼称が変わってきましたが、『朝鮮中央テレビ』午前のニュースでアナウンサーが「“嚮導(きょうどう)”の“偉大な”方々が、党や政府・軍部の幹部たちと共に、温室農場を見て回られた」などと3回にわたり“嚮導”という表現を使用しました。

お馴染みの女性アナウンサー

 『嚮導』という言葉は、“人々の先頭に立って導く”という意味で、北朝鮮では最高指導者や朝鮮労働党にしか使われないということです。ちなみに、『偉大な』というのは、金正恩総書記が最高指導者になって、ようやくつかんだ尊称です。

呼称が1日で変更に…

 しかし、午後のニュースになると“嚮導”“偉大な”という言葉が丸々カットされ、「敬愛する金正恩同志は、続いて党や政府・軍部の幹部たちと共に、温室農場を見て回られた」と呼称が変更されました。

 変更された理由について、龍谷大学・李相哲教授は「朝鮮中央テレビによるご機嫌取り。特別深い意味はない」、『コリア・レポート』編集長・辺真一氏は「国内外の反応をみるため、“嚮導”という言葉を使ったジュエ氏4代目へのプロセス」と違った見解を示しています。

北朝鮮情勢に詳しい、龍谷大学・李相哲教授

Q.「サービス」なのか「国民の反応をみた」のか、ということですね?

(龍谷大学・李相哲教授)

「労働新聞など、今の北朝鮮の報道ぶりをみると無茶苦茶で、そんなに精巧ではないです。例えば、金正恩の罵詈雑言を、そのまま労働新聞に載せたりしています。昔だったら、生成された言葉できちんと加工して、時期を合わせて載せていましたが、今はそのまま垂れ流しにしています。また、金正恩が思いつきで決めたような、昔からの政策に比べると突飛な感じがするものも、そのまま載せたりして、突然それが撤回されたりするんです」

Q.政府系の“検閲”が、うまく利いていないということですか?

(李教授)

「それよりは、金正恩か金与正(キム・ヨジョン)の二人が適当に、自分の気持ちでその場で決めている感じもします。例えば、“嚮導”という言葉も、二人のどちらかが『これ、やり過ぎじゃない?』と言ったから使わなくなったというふうに思います。私は、それで世界の反応を見たいとか、そのために計画を立てて出したとは、全然思えません」

単独で真ん中に写るジュエ氏

 そんな中、ジュエ氏が金総書記より前に立ち、望遠鏡で空輸部隊の訓練を見守る写真も公開されています。金総書記以外の人物が、単独で真ん中に写る写真を撮るのは異例のことです。

ジュエ氏は後継者の本命なのか?

 ジュエ氏が後継者である可能性についても、李教授は「後継者の本命ではない。ジュエ氏の存在は、注目を集めミサイル開発などから目をそらすことが目的」、辺氏は「後継者の本命。今の金総書記の行動は、全て4代目・ジュエ氏に引き継ぐためのもの」と見解が分かれています。

Q.見解が分かれますね?

(李教授)

「私たちだけではなく、世界中の専門家の意見が分かれています」

Q.金総書記よりもアップで写っている写真が以前にもありましたが、それが許されているということですよね?

(李教授)

「そのようなアングルで写真を撮っているということは、かなり異例なことです。だから、専門家の中には『ジュエ氏は偉大な存在なのだ』と思っている人たちがいます」

Q.お嬢さんを出すことによって、柔らかい雰囲気になることも狙っていると思いますか?

(李教授)

「柔らかい雰囲気もありますし、お嬢さんを連れて歩くと、幹部たちが自分にどれだけ気を遣っているかということもチェックできます。いろんな意味があると思いますが、『第4代目も我が一族から出るんだ』というメッセージに関しては、意見は分かれません」

「何をやっても許される立場。金与正と同じ役職だが、年上で頼れる特別な存在」金総書記の後ろで“歩きスマホ”する人物は、処刑報道もあったあの元カノ⁉

話す金総書記に背を向け…彼女は何者?

 金総書記の周りの気になる女性は、他にもいます。4月5日、住宅地を視察する金総書記の後ろで、スマホを見ながら歩く女性。他の場面でも、一生懸命メモを取る人たちを他所に、背を向けてスマホを触っていました。

金総書記の元恋人とウワサされた玄松月氏

 この女性は、金総書記の元恋人というウワサされた人物・玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏です。2018年の平昌五輪では『三池淵(サムジヨン)楽団』の団長として韓国を訪問し、“時の人”に。北朝鮮・元外交官の高英煥(コ・ヨンファン)氏によると、「玄氏には、絶大とも言える権限が与えられている」といいます。

 玄氏は、金総書記が姿を見せる『1号行事』を統括する立場である党宣伝扇動部副部長で、金総書記への報告内容や急な連絡事項がヒョン氏を通じて伝達されるため、現場でスマホに触ることが許されているということです。

 玄氏について、李教授は「何をやっても許される立場。与正氏と同じ役職だが、年上で頼れる玄氏のほうが、特別な存在」、辺氏は「国家として失敗できない重要行事の現場担当。目立つ役職に女性を置くことで、男社会のイメージを刷新できる」と見解を示しています。

Q玄松月氏は一度、表舞台から姿を消しましたよね?

(李教授)

「一時、処刑されたという報道もありましたが、今は特別な扱いを受けているとみて間違いないです。金総書記の心理状態を考えると、殺伐とした男社会、権力の中枢で、気を許すことができるのは女性です。だから彼女を傍において、いろんな細かい指示を出している状況だと思います」

Q.以前までの北朝鮮の映像は物々しい軍服を着た男性ばかりだったのが、与正氏・ジュエ氏・玄氏など、女性がどんどん出てきていますよね?

(李教授)

「女性の“活躍”と言えばいいのか、金正恩の傍にはいつも女性がいます。ただ、政治的な意味というよりは、女性がいると心理的に安心するのでしょう」

Q.妹・金与正氏は今、どうしているのですか?

(李教授)

「自ら目立たないように振る舞っている状況ではないかと思います。もしかすると金ジュエの登場も、金与正に世界の目が注がれて有名になると、『権力を奪われる、危険だ』と金正恩に粛清される恐れがありますので、事前にそういったことを遮断するために、与正が一歩下がって、ジュエを出して自分から目をそらす意図があったということも考えられます」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年4月25日放送)