コンパクトミニバンの代名詞的存在「ホンダ フリード」が、8年ぶりにフルモデルチェンジされます。2024年6月に予定される正式発表を前に、報道陣向けに実車がお披露目されるとともに、コンセプトとデザイン中心の事前説明会が開催されました。3代目フリードは果たして、どんな「ちょうどいい」楽しさを与えてくれるのでしょうか。

家族という単位の世代交代とともに、つながる「バトン」

初代フリードが誕生したのは、2008年のこと・・・ですが、ミニマムなサイズにマキシマムな快適性と使い勝手を与える発想自体は、ご先祖様と言える「モビリオ」までさかのぼることができるでしょう。

発売開始は2001年のこと。フィットに続く「SMALL MAXシリーズ」として、新世代パワートレーン「i-シリーズエンジン」を搭載、新しい価値を持つコンパクトミニバンとして登場しました。

2001年と言えば、今から20年以上前に当たります。現在、夫婦が30代前後に達するファミリー層の中には、たとえば小学校高学年くらいの時に「我が家に電車みたいな形の小さなミニバンがあったなぁ」と記憶している人が、少なくないかもしれません。

そういう意味では、3代目となる新型フリードはちょうど、「家族の世代サイクル」が一巡するタイミングに当たる、と言えそうです。モビリオがつむいだ「家族とともに過ごす時間」を記憶する子供たちが親になり、「家族との時間」をつむぐ理想の愛車を探し始める・・・そんな新しいサイクルが、新型フリードから始まります。

歴代のフリードに込められている開発テーマはもちろん、それぞれに時代の変化を反映しているものです。一方で、クルマに対する憧れ、価値観を「バトンリレー」のようにつないでいく思い出作りのパートナーとして、変わらぬ魅力が受け継がれているように思えます。

大雑把に見渡すなら、時代の感性にフィットするスタイルをまといながらもコンパクトなサイズは変わらず、より広く、より使いやすく、より経済的で、より多才かつもっと安心・安全な・・・という進化の流れがあるでしょう。

根幹には、常に「家族であれ仲間であれ、乗る人みんなのことを大切にするための優しさ」という価値観があります。フリードとしては2世代、十数年間に渡って、そのバトンは連綿とつながれてきたのでした。

今回の事前説明会では、3代目もそのリレーをつなぎ続けるために変わらない価値を継承しながら、時代の変化に歩調を合わせた進化を遂げていることが感じられました。

世界観を拡げるふたつのスタイル。5/6/7人乗りを用意

開発責任者の安積 悟さん(本田技研工業株式会社 電動事業開発本部BEV開発センター)が真っ先に掲げた新型フリードのグランドコンセプトは、「Smile “Just Right Mover” 〜こころによゆう 笑顔の毎日〜」です。

「Just Right」はまさに「ちょうどいい」を意味する言葉。初代以来のキーワードを継承しつつセダン的な快適性、乗り心地の良さを実現するとともに、ミニバンとしての使いやすさ、便利さが磨き抜かれていると言います。

加えて新型フリードでは「FREED AIR(フリード エアー)」(以下エアー)と「FREED CROSSTAR(フリード クロスター)」(以下クロスター)、ふたつのスタイルを設定。それぞれのキャラクター分けを明確化し、フリードが持つ世界観そのものを拡張しました。端的な違いは、以下のようになります。

●●AIR(エアー):日常と多様性を司るスタイル

・安心・快適・家族中心というフリードの哲学を継承・進化
・上質で洗練されたシンプルなデザイン
・優しくなれる使い心地と自然体でいられる一体空間
・安心を感じさせるカラー、使いやすさを追求した素材コーディネイト

●●CROSSTAR(クロスター):非日常・個性を司るスタイル

・アウトドアテイストをプラス。機能価値と遊び心を醸成
・力強く遊び心にあふれるカタチ
・もっと遊べる空間性能と拡張性のあるアレンジ
・アウトドアシーンに似合うカラーコーディネイト
・アクティブかつフレキシブルな使い勝手

それぞれのスタイルが持つ特性を生かすために、エアーに7人乗りの3列仕様が、クロスターには5人乗りの2列仕様が、それぞれ専用ディメンションとして設定されました。どちらも2列目は、3人乗りのベンチシートとなります。

同時に新型フリードにはエアー/クロスターともに、2列目にキャプテンシートを配置した、3列6人乗り仕様が用意されました。ベンチシート仕様はより大容量の荷室を作り出すことが可能、一方のキャプテンシート仕様はよりパーソナルな空間性能を重視するユーザーにマッチするようです。

笑顔の毎日に、ゆったりとした気持ちで優しくなれるパッケージングは不可欠。つまりは、どの仕様でも優れた使い心地やアレンジの楽しさを満喫できることは確かでしょう。

時代の変化に合わせて「よゆう」にこだわってみた

実はグランドコンセプトとは別にもうひとつ、新型フリードに込められた開発陣の想いを端的に語っているように感じられた言葉がありました。

クルマそのものが主役になるのではなく
その時、その時のシーンや気持ちに寄り添いながら
生活を彩ることのできる・・・

これはデザインCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)担当の三輪あさぎさん(株式会社本田技術研究所 デザインセンター)が、エアーのカラーラインナップに関する説明の中で使われた表現です。そこには、新型フリード全体を貫く開発ポリシーが秘められているように思えたのでした。

新型フリードのメインターゲットは、30代×子育て層。自動車市場全体で盛り上がるSUV/クロスオーバーという新しいトレンドをしっかり取り込み、より広い世代をターゲットとして設定しながらも、そうした「子育て層」の願いに応え、安心できるカーライフをサポートするというコアの部分は初代から(というよりご先祖様の時代から)変わりません。

それでも時代の空気は変わります。たとえば現代、子育て層は自分以上に家族を尊重する傾向が強まっているといいます。それはとても素敵なことですが同時に、いろいろな意味で「余裕(ホンダはあえて平仮名でよゆうと呼んでいますが)がない」日常を、多くの人々がリアルに実感するシーンも増えているようです。

そのため新型フリードでは、運転に自信がない人や子供の世話で忙しいシーンでも、気兼ねなく安心して使いこなせるパッケージング、インテリアコーディネイトを徹底するとともに、毎日の運転に余裕を持てる走行性能、安全運転支援を追求しています。

上質で力強い走行性能を発揮するホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV」は、扱いやすさという意味で、新型フリードの最大のUSP(ユニークセールスポイント)と言えるでしょう。加えて、アップデートされた「Honda SENSING(ホンダ センシング)」の搭載が、絶大な安心感につながるはずです。

もっとも・・・なにより肝心なのは、実車を目にして強く感じられた「新型フリードはカッコ可愛い」という第一印象かもしれません。たとえばエアーは、見るからに気軽に運転できそうなサイズ感、広々感が伝わってくるクリーンなフォルムが絶妙にキュートなたたずまいを醸し出しています。

より大胆かつタフな印象にまとめられたクロスターは、いろんなところに「行ってみたい」とかいろんなことに「挑戦してみたい」という気持ちを盛り上げてくれそう。それでもどこかペット感が漂っているのは、新型フリードとして共通する魅力でしょう。

クルマを動物にたとえる例は多々ありますが、新型フリードの場合は、デザインの細部でわかりやすいハイテク感が演出されているように思えます。あえてたとえるなら、「AIBO」的な?メカニカルなのに、表情豊かなデザイン性に魅力を感じました。

今回は3代目フリードの全体像についてお伝えしましたが、新しい「ちょうどいい」はもっともっと広くて楽しい世界観を楽しませてくれそうです。Webモーターマガジンとしては今後も、新型フリードのいろんな魅力を詳しく紹介していきたいと考えています。(文:神原 久 Webモーターマガジン編集部/写真:井上雅行)