機能化学各社は2024年後半の伸びを見込み、半導体関連需要への対応を進めている。信越化学工業は国内4番目の工場を群馬県に新設し、関連会社を完全子会社にして需要増に応える。富士フイルムホールディングス(HD)は台湾積体電路製造(TSMC)が進出した熊本県の拠点で設備を増強し、先端半導体の生産を効率化する材料を近く発売。積水化学工業も半導体向けプラントの設備投資需要などの取り込みを狙う。(渋谷拓海)

積極的に成長投資、新工場・設備増強相次ぐ

信越化学は半導体露光材料を手がける工場を、群馬県伊勢崎市に建設する。既存の工場ではさらなる増強が難しいことから、国内外の用地を検討し決定した。総投資額は用地取得費と第1期工事分だけで約830億円に上り、早期稼働を目指す新工場(第1期)は26年までの竣工を予定する。約15万平方メートルの事業用地を活用し、工場を段階的に拡張。開発を含む半導体材料の先進拠点にしようと準備を進める。

同社はさらに、シリコンウエハーの加工などを手がける関連会社の三益半導体工業(群馬県高崎市)を買い付け総額約680億円で完全子会社化する見通し。信越化学単体で三益半導体の株式42・75%を所有しており、7月下旬に株式公開買い付け(TOB)を始める。信越化学の斉藤恭彦社長は「当社や信越半導体との連携を一層深化する」と話す。

富士フイルムは熊本県の拠点に生産設備を整備(左から吉本孝寿菊陽町長、後藤禎一富士フイルムHD社長兼CEO、蒲島郁夫熊本県知事<当時>)

富士フイルムHDの事業会社である富士フイルムも約60億円を投じ、熊本県菊陽町のグループ生産拠点内に先端半導体のイメージセンサー用カラーフィルター材料の生産設備を導入した。25年春の稼働を予定する。国内における同材料の生産能力を、現状比約3割増やす計画だ。

イメージセンサーは光を電気信号に変えて映像化する半導体。デジタルカメラやスマートフォンのほか、自動車やセキュリティー機器にも用途が拡大しているという。同材料は静岡県吉田町と台湾で生産しており、韓国でも工場を建設中だ。

菊陽町の生産拠点では、1月にも半導体ウエハー用研磨剤(CMPスラリー)の生産設備を本格稼働した。国内初のCMPスラリー生産設備となり、投資額は約20億円だ。

富士フイルムHDは4月に発表した中期経営計画(25年3月期―31年3月期)で、成長領域に位置付けるバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)や半導体材料を中心に、25年3月期―27年3月期の3カ年で総額1兆9000億円を成長投資に充てると明記した。大手半導体メーカーによる米国、欧州、アジアでの事業拡大に対応する体制を整え、中計期間中の27年3月期に半導体材料を含むエレクトロニクス分野で売上高4700億円を目指す方針を掲げる。

底打ちの兆し、性能・供給能力向上急ぐ

半導体関連需要は足元で低調だったが、各社とも健闘している。信越化学の24年3月期連結決算は、電子材料事業の売上高が前期比3%減の8504億円。富士フイルムHDは24年3月期連結業績予想を4月に上方修正し、電子材料事業の売上高は同10・7%増の2000億円を見通す。積水化学工業も半導体関連需要の低迷の影響を受けたものの、非液晶製品の拡販が好調で高機能プラスチックス部門の24年3月期売上高が同4・2%増の4128億円となった。

こうした中、各社は今後について「24年後半に半導体関連需要が再び上向く」と共通の見方を示している。積水化学は25年3月期連結業績予想で、高機能プラスチックス部門の売上高を同9・6%増の4525億円と見通す。さらに半導体向けプラント設備投資需要の取り込みなどを狙い、環境・ライフライン部門の売上高を同4・5%増の2454億円と予測する。

富士フイルムも需要回復を見込み、5月下旬に先端半導体製造時のコスト減と省電力化に貢献する半導体材料「ナノインプリントレジスト」を発売する。同材料はウエハー上のレジストに回路パターンをハンコのように押し当てて転写・形成する新しい半導体製造技術「ナノインプリントリソグラフィ」に対応する。投資額がかさみやすい先端半導体分野で攻勢を強める。

機能化学各社の多くは、半導体材料以外も幅広く生産・供給している。「伸びるのは半導体だが、好況と不況のサイクルが激しい。半導体が自社をけん引するという将来展望が明確に見えているわけでもない」(機能化学大手)との声も聞こえる。

一方で、半導体関連需要に底打ちの兆しも出てきた。各社は需要回復に備え、製品性能と安定供給能力の向上に加え、サプライチェーン(供給網)強化にも着々と取り組んでいる。


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