4月27日のDeNA戦で巨人の左腕・横川凱が今季初勝利を挙げた。この名前を見るたびに筆者が思うのは、6年前の夏の甲子園だ。

 2018年の全国高等学校野球選手権大会は第100回の記念大会で、56校が甲子園に出場。金足農の吉田輝星が、初戦から決勝進出まで一人で投げ抜いた。そして決勝は春の覇者、大阪桐蔭との対戦になった。

 圧倒的な戦力を擁する大阪桐蔭は、初回から吉田を攻略し3点を奪い、5回には7安打を集中させ、吉田を降板させる。吉田はすでにここまで881球を投げていた。

 5回にこの吉田からセンターオーバーの本塁打を打ったのが5番遊撃手の根尾昂。大阪桐蔭の4番・藤原恭大も3安打していた。大阪桐蔭はエースの柿木蓮が完投し、13-2で圧勝。2回目の春夏連覇を果たした。

 横川は柿木、内野手兼任の根尾に次ぐ3番手投手だったが、決勝では出番がなかった。

 この年のドラフトで、この2チームからは、吉田輝星(日本ハム1位)、根尾昂(中日1位)、藤原恭大(ロッテ1位)、横川凱(巨人4位)、柿木蓮(日本ハム5位)と5人もの選手がドラフト指名された。吉田は4球団が競合した根尾の「外れ1位」だった。

野手から投手転向、根尾は今季まだ一軍出場なし

 この世代で最も注目されたのは、根尾昂だった。筆者は翌2019年2月、沖縄県読谷村の中日の二軍春季キャンプに行ったが、根尾を一目見ようというファンで大賑わいだった。根尾はこの年引退したばかりの荒木雅博コーチのノックを受けていた。

 以後も根尾はこの世代の中心にいたが、一軍に定着することができず。立浪和義監督になった2022年には外野手に転向、さらにこのシーズン中に投手転向が決まった。

 今季までの通算成績は以下のようになる。

 打者:134試239打41安1本20点0盗 率.172
 投手:27試0勝0敗0S1H41.2回26振 率2.59

 今季はまだ一軍出場がない。

オリ移籍の輝星、ケガがちの藤原、そして横川は…

 翌年から有識者会議の議論が始まった「球数制限」のきっかけとなった金足農の吉田輝星は、日本ハム入団時も大いに期待された。しかし先発では結果が出ず救援に転向。2022年は51試合に登板した中で今季、トレードでオリックスに移籍、当初は中継ぎで好投したものの、最近は打ち込まれている。

 通算:74試3勝9敗0S8H109回75振 率6.28

 ロッテに1位入団した藤原恭大は中軸打者として期待された。昨年は103試合に出場、レギュラーまであと一歩と迫ったがオープン戦で自打球を当て右膝蓋骨を骨折して今季は未出場。怪我が多い印象だ。

 通算:262試775打176安12本60点25盗 率.227

 大阪桐蔭のエースだった柿木蓮は、日本ハムに5位で入団。吉田輝星のチームメイトになったが、2022年に4試合投げただけ。現在は育成契約となっている。

 通算:4試0勝0敗0S0H4.1回1振 率2.08

 この中では一番地味な存在だった横川凱は、巨人に4位で入団後、2021年、22年と育成契約になりその都度復活した。2023年は先発で投げて4勝、彼ら投手の中では最も勝ち星を挙げていて、今季も先発での活躍が期待されている。

 通算:29試5勝10敗0S0H110回61振 率3.76

 あの甲子園から6年目の今年、甲子園のヒーローたちの明暗は分かれつつある。

球宴出場の小園、万波は昨季本塁打王争い

 この甲子園に出場した3年生の中には、決勝に進出した2チーム以外で、NPBの一線で活躍する選手がたくさん出ている。ちょうど2000年生まれ、今年24歳になる選手たちだ。

・小園海斗(報徳学園)
 ベスト8で敗れた報徳学園にあって、大会記録となる1試合3二塁打を打った小園はドラフト1位で広島に入団。2022年にはオールスターにも出場している。
 通算:404試1495打405安22本128点16盗 率.271

・野村佑希(花咲徳栄)
 投打二刀流で甲子園出場。花咲徳栄は2回戦で敗退したが、2本塁打を記録した。2018年ドラフト2位で日本ハムに入団。プロでは内野手として活躍。中軸を打つこともある。
 通算:346試1242打317安29本134点7盗 率.255

・万波中正(横浜)
 3回戦で吉田輝星の金足農に敗退。2018年ドラフト4位で日本ハムに入団。身体能力の高い外野手として頭角を現し、昨年は本塁打王にあと1本と迫る25本塁打を記録。オールスターにも出場した。
 通算:315試1046打248安47本138点3盗 率.237

・奈良間大己(常葉菊川)
 常葉菊川も3回戦で敗退するが奈良間は1本塁打。立正大に進み活躍。2022年ドラフト5位で日本ハムに入団。小柄だがアグレッシブな守備と打撃で、新庄剛志監督の期待を集めている。
 通算:78試200打49安2本16点2盗 率.245

・蛭間拓哉(浦和学院)
 浦和学院はベスト8まで進出。仙台育英戦で本塁打を打った蛭間は早稲田大学に進み活躍。2022年ドラフト1位で西武に入団。1年目から一軍で活躍している。
 通算:56試198打46安2本20点0盗 率.232

・林晃汰(智辯和歌山)
 1回戦で敗退。2018年ドラフト3位で広島入団。2021年には102試合に出場し10本塁打。正三塁手の期待がかかる。
 通算:126試423打108安11本45点0盗 率.255

1つ下で宮城・奥川・西舘、2つ下で度会も出ていた

 なお上記した3年生以外でも、プロで活躍している選手が多い。

 2年生では宮城大弥(興南/オリックス)、奥川恭伸(星稜/ヤクルト)、西舘勇陽(花巻東/巨人)、及川雅貴(横浜/阪神)、黒川史陽(智辯和歌山/楽天)、東妻純平(智辯和歌山/DeNA)、武岡龍世(八戸学院光星/ヤクルト)、1年生では度会隆輝(横浜/DeNA)、内山壮真(星稜/ヤクルト)、来田涼斗(明石商/オリックス)などといった面々が出場している。

 まさに今、ブレークしようという若手選手たちが、甲子園という大舞台に集結していた。言わば甲子園は人材の宝庫なのだ。

 しかし6年の歳月を経て改めて思うのは「甲子園は最終目標」ではないということ。頂点を極めた選手ではなく、敗退して涙を呑んだ選手の中から、新たなヒーローが生まれつつある。

 指導者は「目の前の甲子園」ではなく「将来」を見て選手を育成すべきだと、改めて思う。

週間成績セ:しぶとい阪神、中日は細川が爆発

【2024年4月22日〜29日 週間成績】
〈セ・リーグ〉
・今季成績
 阪 神26試14勝9敗3分 率.609
 巨 人27試13勝11敗3分 率.542
 中 日26試12勝11敗3分 率.522
 広 島23試10勝10敗3分 率.500
 DeNA25試10勝14敗1分 率.417
 ヤクルト25試10勝14敗1分 率.417

・5週目の成績
 阪 神5試3勝1敗1分 率.750
 広 島4試2勝1敗1分 率.667
 巨 人7試4勝3敗0分 率.571
 ヤクルト6試3勝3敗0分 率.500
 中 日6試2勝3敗1分 率.400
 DeNA6試1勝4敗1分 率.200

 阪神がしぶとく勝ちをもぎ取っている。DeNAが失速。

〈打撃成績5傑〉※打撃の総合指標であるRC=Runs Create順
 細川成也(中)25打8安3本8点 率.320 RC5.82
 サンタナ(ヤ)24打9安1本3点1盗 率.375 RC5.44
 長岡秀樹(ヤ)24打10安3点 率.417 RC4.64
 近本光司(神)19打6安1本2点 率.316 RC4.02
 カリステ(中)23打6安2本4点 率.261 RC3.92

 29日、中日が大勝する中で細川は5打数3安打5打点で一気に数字を伸ばした。本塁打、打点もトップ。盗塁は巨人のオコエ瑠偉、門脇誠が2回成功した。

〈投手成績5傑〉※リーグ防御率に基づくPR=Pitching Run順
 ヤフーレ(ヤ)1登1勝9回 責0率0.00PR3.06
 床田寛樹(広)1登1勝8回 責0率0.00PR2.72
 九里亜蓮(広)1登7回 責0率0.00PR2.38
 髙橋宏斗(中)1登7回 責0率0.00PR2.38
 山﨑伊織(巨)1登1勝6.8回 責0率0.00PR2.15

 ヤクルトのヤフーレは29日の巨人戦で94球で完封勝利。100球未満で完封する「マダックス」を達成。昨年10月1日のDeNA大貫晋一以来の快挙だった。救援では巨人の大勢の3セーブ、バルドナードの3ホールドが最多だった。

週間成績パ:柳田が「16出塁」の凄まじさ

〈パ・リーグ〉
・今季成績
 ソフトバンク25試17勝6敗2分 率.739
 日本ハム23試13勝9敗1分 率.591
 オリックス27試13勝13敗1分 率.500
 楽 天25試11勝13敗1分 率.458
 ロッテ25試10勝14敗1分 率.417
 西 武25試8勝17敗0分 率.320

・5週目の成績
 ソフトバンク6試6勝0敗0分 率1.000
 楽 天5試3勝2敗0分 率.600
 日本ハム5試3勝2敗0分 率.600
 オリックス6試3勝3敗0分 率.500
 ロッテ6試1勝5敗0分 率.167
 西 武6試1勝5敗0分 率.167

 ソフトバンクが6連勝、2位日本ハムに3.5差をつけた。ロッテと西武は振るわなかった。

〈打撃成績5傑〉
 柳田悠岐(SB)22打9安1本8点 率.409 RC7.28
 中村剛也(西)25打7安2本3点1盗 率.280 RC5.45
 川村友斗(SB)21打9安2点2盗 率.429 RC5.44
 福田周平(オ)19打8安2点2盗 率.421 RC5.38
 金子侑司(西)19打7安2本5点1盗 率.368 RC5.29

 ソフトバンクの柳田は9安打7四球の16出塁。打点も1位の8打点。本塁打は西武の中村と金子、ロッテ・ポランコの2が最多。盗塁は楽天の小深田大翔が3回成功している。

〈投手成績5傑〉
 エスピノーザ(オ)1登7回 責0率0.00PR2.07
 大津亮介(SB)1登1勝7回 責0率0.00PR2.07
 北山亘基(日)1登7回 責0率0.00PR2.07
 曽谷龍平(オ)1登6回 責0率0.00PR1.78
 メルセデス(ロ)1登6回 責0率0.00PR1.78

 オリックスの新外国人エスピノーザは24日の西武戦で7回零封も勝ち星つかず。ソフトバンクの大津は25日のロッテ戦で7回零封勝利。日本ハムの北山も29日のオリックス戦で7回零封も勝ち星つかず。救援では楽天の則本昂大が2セーブ。西武の佐藤隼輔、水上由伸が3ホールドを挙げた。

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama