ドジャース大谷翔平(29)の口座から違法賭博で作った借金を返済するために1600万ドル(約25億円)以上を盗み銀行詐欺罪で訴追された水原一平容疑者(39)が違法なブックメーカーに送金した「お金の行方」の一部が明らかになった。米スポーツ専門局「ESPN」が報じたもの。50万ドル(約7800万円)が、カリフォルニアとラスベガスのカジノのアカウント口座に預金され、カジノチップに交換された後に現金化。いわゆるマネーロンダリングに利用されていた。また“胴元”のマシュー・ボウヤー氏(49)はカジノで790万ドル(約12億4000万円)を散財したという。

 違法ブックメーカーはカジノで約12億4000万円を負ける

 水原容疑者が大谷の銀行口座から巧妙な手口で違法なブックメーカーに送った大金の一部の行方が判明した。ESPNEがオペレーションを直接知る複数の情報筋の話として報じたもの。
水原容疑者は違法なブックメーカーを運営していたボウヤー氏の仲間の口座に違法賭博で負けた借金を送金。ボウヤー氏は、それを南カリフォルニアにあるカジノ「リゾート・ワールド」と「ペチャカ・リゾート・カジノ」にある自分のアカウント口座に振り込んだという。
ボウヤー氏らは、その口座からカジノで賭けるためのチップに交換し、勝った場合に現金に換えたという。事実上のマネーロンダリングだ。
ボウヤー氏(49)は、2022年6月から2023年10月にかけて常連だった「リゾート・ワールド」で790万ドル(約7億4000万円)を失った。連邦捜査局は、2023年10月5日にボウヤー氏の自宅へ家宅捜査に入り、以降全米のカジノで出入り禁止となった。
2021年に開業した「リゾート・ワールド」は、連邦捜査当局により違法なブックメーカーのマネーロンダリングに加担した容疑で捜査を受けて召喚されているという。
カジノの経営者や従業員は、疑わしい行為や5000ドル(約78万円)を超える取引に違法行為の疑いがある場合は、当局への報告義務がある。
「リゾート・ワールド」の元社長だったスコット・シベラ氏は、マイナーリーグでのプレー経験があるウェイン・ニックスの不審な活動の報告を怠ったという罪を認めている。ちなみにニックスは、違法なブックメーカーを運営していた罪で訴追されており、顧客には、NBAの“レジェンド”のスコッティ・ピッペン、ドジャースでプレーし球宴出場経験もあるヤシエル・プイグ、NBAのスーパースター、レブロン・ジェームズの長年の友人でビジネスマネージャーだったマーベリック・カーター氏らがいた。
連邦当局によると、ボウヤー氏には顧客が600人以上いて、水原容疑者は、その一人。トータルで差し引き4070万ドル(約63億8000万円)円の負債を抱えていた。
同メディアが取材したロサンゼルスのIRS犯罪捜査担当特別捜査官であるタイラー・ハッチャー氏は「ボウヤー氏の行動はブックメーカーの典型」だという。
「あいつらはセールスマンだ。彼らの仕事は顧客にプレーをし続けてもらうこと。もう一人のセールスマンが『(信用賭けは)大丈夫だよ。次こそ勝てばいい』と言い続ける」
連邦捜査当局が発表した訴追状で明らかになった水原容疑者とブックメーカーのメッセージのやりとりの中でも「これが最後」と言いながら、ギャンブル地獄に陥っていく様子が浮き彫りになった。
水原容疑者がボウヤー氏と知り合ったのは、サンフランシスコのチーム宿舎のポーカー場だったが、ボウヤー氏のような違法のブックメーカーは、顧客探しをエージェントやサブブックメーカーに依頼しており、エージェントには、顧客の価値に応じて、賭け分の10%から50%が手数料としてリターンされるシステムだという。
ESPNは「勝っても負けても10%の手数料を返すのは、お客さんが欲しいから。長期的には(お客が)負けるからね」という匿名のブックメーカーのコメントを紹介している。

 またボウヤー氏は、ラスベガスでは「whale(クジラ)」(大金を使う客)として知られており、カジノフロアで数百万ドルを失うことを恐れない大口ギャンブラー。月に2、3回、訪問して、その際、25万ドル(約3900万円)から100万ドル(約1億5700万円)を持参。2021年に「リゾート・ワールド」が開業すると、妻や友人のグループと共に訪問する機会が増え、最初の訪問で80万ドル以上(1億2500万円)を使ったという。
バウアー夫婦らは、カジノからするとVIP客。見返りに「コンプ」と呼ばれるカジノホテル内での無料飲食、スイートルーム使用、ショーやボクシングなどのスポーツイベントのチケット、ゴルフ、ショッピング、サービスのチップなどの特典を受けていた。
水原容疑者が、大谷や銀行の担当者を騙して不正に口座から送金を続けていたお金の一部が、流れ流れて、これらの悪事に使われていたことが、今回の事件の背景に潜む実態だとすれば、その罪はあまりにも重い。スキャンダルに巻き込まれた大谷も血のにじむ思いで稼いだお金が、米国の“闇社会”に消えていたと知ればやりきれない気持ちだろう。