プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)が9月に予定している次戦の対戦相手がIBF&WBO同級1位のサム・グッドマン(25、豪州)か、元IBF世界同級王者でWBOアジアパシフィック同級王者のテレンス・ジョン・ドヘニー(37、アイルランド)かで混沌としていることが15日、明らかになった。グッドマンが、すでに7月に現地での試合を決めているため調整がついていないもの。東京ドームシティ内「blue-ing! DISCOVER」で行われたLemino BOXING「フェニックスバトル115」の前日計量及び7月18日に開催される大会のカード発表会見に出席した大橋秀行会長(59)が「まだどうなるかわからない。次戦は今月中には決めたい」と明かした。

 最有力候補のグッドマンが7月に試合を予定

 モンスターの次戦相手が決まらない。
大橋会長は「まだどうなるかわからない」と頭を抱えた。
井上は4万3000人が集まった6日の東京ドームで“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)と対戦。1ラウンドにダウンを奪われたものの、3度ダウンを奪い返す劇的な展開で6ラウンドにTKO勝利した。
その反響は凄まじく大橋会長も「私も街を歩いていると声をかけられるくらい反響が凄い。次はいつですか?という問い合わせも多い」と明かすが、9月に予定している井上の次戦の対戦相手がまだ決まらないのだ。
最有力候補はIBF&WBOの同級1位で2団体の指名挑戦権を持つ18戦無敗のグッドマン。ネリを倒した後に東京ドームのリングに招き入れ、井上が「次戦、9月頃、隣にいるサム・グッドマンとの防衛戦をこれから交渉していきたいと思う」と呼びかけると、グッドマンも「自分もベルトが欲しくてここまで戦ってきた。絶対にやりましょう」と応じるという事実上の“発表セレモニー”もあった。
すでに都内の会場を押さえてグッドマン陣営との交渉に入っていたが、グッドマンが、先に7月に豪州での試合を組んでいたため、9月の世界戦となると間隔が短すぎるため調整がついていないという。興行の大きさとファイトマネーからすれば、井上への挑戦を最優先するものと見られているが、その指名試合が先延ばしになるケースを想定し、元世界王者のドヘニーが、代役候補として急浮上しているのだ。
ドヘニーは、ネリが体重超過した場合のリザーブ選手として東京ドーム大会のオープニングファイトに登場、ブリル・バヨゴス(フィリピン)に4回TKO勝利した。今回もまたまたリザーブの立場だが、日本時間13日にアイルランドのボクシング情報を発信しているWEBサイト「アイリッシュ・ボクシング」のインタビューに答え「(井上の次戦相手交渉は)今は混戦状態だ。ボブ・アラムが行った最新の声明によれば、9月の対戦候補はオレが最有力で、その後にグッドマンが登場する可能性が高い」と断言した。
さらに「グッドマンのチームは(井上とは)今年の後半か2025年の最初に戦うことを希望している。だからリングに上がっての呼びかけは日本での知名度を上げるためにやったことだと思う。正直なところ、オレがリングに飛び込んでマイクを握り、自分の意見を言いたかったんだけど我慢したよ。どちらにしてもオレにタイトルのチャンスはある。WBOランキングで3位につけていて、もうすぐ2位に昇格する予定だ。今年はどのような展開になったとしても、少なくとも井上(への挑戦)か、空位の王座(井上がベルトを返上した場合の挑戦)か、どちらかのコーナーに立つことになる」とも語っている。

 ドヘニーの発言の拠り所は、井上陣営の共同プロモーターであるトップランク社のボブ・アラムCEOが「FOXスポーツ豪州」の取材に対して「グッドマンが井上と戦うのは9月か12月かわからない。グッドマンもアイルランド人(ドヘニー)も素晴らしい対戦相手だ」と明かしたものだ。
だが、このアラムCEOの発言もドヘニーの「次はオレだ!」の発言にも、嘘偽りはなく、実際、ドヘニーが井上の次の挑戦者として指名される可能性が浮上してきたのだ。
ドヘニーは26勝(20KO)4敗の戦績を持つハードパンチャー。日本での知名度も、KO率もグッドマンより上だ。ドヘニーは6年前に後楽園ホールに登場、IBF世界同級王者だった岩佐亮佑に挑戦して3−0判定で勝利して世界王座を奪取、初防衛戦ではニューヨークで高橋竜平を11回TKOで下すなど、日本のファンにも馴染みが深い。2019年にWBA世界同級王者のダニエル・ローマン(米国)との統一戦に僅差の判定負けを喫してベルトを失ったが、昨年6月には、井上のジムの後輩でWBOアジアパシフィック同級王者だった中島一輝に挑戦して4回TKO勝利している。
ただドヘニーは、中島戦の3か月前にIBFインターコンチネンタル&WBOオリエンタル同級タイトルマッチとして2冠王者のグッドマンに挑戦。3回にカウンターの左フックを浴びてダウンを喫するなどしてジャッジの1人がフルマークをつける大差の0−3判定で敗れている。
試合としては、パンチがなく総合力で戦うタイプのグッドマンよりも、真っ向打ち合うドヘニーの方が面白いだろうが、IBFとWBOの両団体が指名試合を先延ばしすることを了承するのか、井上がモチベーションを保つことができるのか、などの問題も残っている。
大橋会長は「今月中にはまとめたい」としている。
ただ相手がどうであれ、2階級4団体王者の井上がやるべきことは変わらない。大橋会長によると、すでに井上は2日前に練習を再開。また6月6日に米国ニューヨークで行われる全米ボクシング記者協会(BWAA)の夕食会に出席することも明らかにした。
井上は昨年同協会が選ぶ最優秀選手賞(シュガー・レイ・ロビンソン賞)を日本人として初めて受賞。今回はその受賞式を兼ねた夕食会。また偶然にも、大谷翔平が所属するドジャースが6月7、8、9日の3日間ニューヨークでヤンキースとの3連戦を行うため、試合観戦に訪れるという。井上と大谷は2018年12月に都内で行われた日本プロスポーツ大賞の表彰式で同席。控室で大谷の方から「一度試合を見に行かせて下さい」と、リクエストされたが実現していなかった。先に井上の大谷の試合観戦が実現することになる。また今回の渡米のタイミングでニューヨークで開催されるボクシング興行も観戦予定だという。

 この日、井上は大橋会長と共に東京ドームを訪れて、布袋寅泰と吉川晃司のユニット「COMPLEX」の能登半島地震復興支援ライブを楽しんだ。布袋は6日のネリ戦でサプライズ登場して入場曲を生演奏。会場を盛り上げると共にネリ戦に向かう井上のテンションをアップしてくれた。観客席からドームを体感した井上は、布袋のギターに酔いしれると同時に再びここに帰ってくることを思い浮かべたに違いない。
大橋会長は、WBOアジアパシフィックウエルター級王座の防衛戦&OPBF東洋太平洋同級王座決定戦の2冠戦に挑む佐々木尽(八王子中屋)をメインにした「フェニックスバトル115」の前日計量を世界戦以上にショーアップする異例の試みを行った。
合わせて7月18日に後楽園で開催する日本スーパーフライ級、同バンタム級の2大タイトルマッチも発表した大橋会長は、「みんなにはドームで試合のできるような選手になってもらいたい。来年も(ドーム興行が)できれば、この選手の中から出てもらいたい。十分可能性はあると思います」と、来年第2回の東京ドーム大会を開催する可能性について明言している。