こうした高い賃上げ率のわりに、私たちの収入に余裕が感じられないケースが少なくありません。それには次にあげる3つの理由があります。①中小企業の賃上げ率は大企業に及ばずに4%台で、(主に、大企業などを対象とした)メインの情報として公表される数値ほどの賃上げを享受できていないこと、②40歳代などの支出がかさみやすい年齢層では昇給額が増えにくいケースがみられること、そして③賃金の伸びが、物価高の勢いに追いついていないこと――です。

厚生労働省が4月8日に発表した勤労統計調査から、1人当たりの賃金は、物価を考慮した「実質」賃金で前年同月比1.3%減と、23カ月連続でマイナスでした。「名目」の賃金は増えているなか、それ以上に物価が上がることで、「実質」で見た私たちの購買力は低下しています。

景気の実感とGDPに乖離がある要因

このような実質と名目の違いは賃金の話だけでなく、景気全体に関する私たちの実感とのズレに大きく影響しています。

「日本経済全体の景気動向を把握するためにはGDP(国内総生産)が適しています」と日銀のウェブサイトに記載されています。景気を見る指標には、鉱工業生産指数など様々あります。しかし専門的な詳細はわからなくても、多くの読者にとってGDPは経済全体を代表する指標とイメージする方も少なくないでしょう。GDPを簡単に言えば、国内で生産された価値で、商品などの販売額から、原材料などを差し引いた金額のことです。

内閣府から3月11日に発表されたの四半期別(2023年10-12月期)の実質GDP(国内総生産)は前期比0.4%増でした。実は、その前の四半期(7-9月期)が2.9%減とマイナス成長でした。2四半期連続でマイナス成長の場合、景気が後退局面に入ったと専門家から指摘されてしまうため、今回の発表でそれが回避された点は大きいと見られています。

しかし、GDPの内訳となる個人消費は、さらにその前の四半期(4-6月期)から3四半期連続でマイナス成長となりました。GDPの項目のうち私たちの実感と最も関係する個人消費が厳しい状況にあることも、私たちの景気の実感とGDPに乖離がある要因の1つです。