存廃の危機迫る予土線で感謝祭

 JR四国が予土(よど)線など赤字3路線のあり方について沿線の地方自治体に協議入りを訴えて1年が過ぎた。しかし、事態は全く動いておらず、協議の入り口にも立てない状態だ。愛媛県松野町のJR松丸駅前で3月、開催された予土線全線開通50周年感謝祭。式典の終盤に鏡開き用の木づちを持った4人が姿を見せた。

 感謝祭を主催した予土線利用促進対策協議会会長の坂本浩松野町長と来賓の中村時広愛媛県知事、浜田省司高知県知事、JR四国の西牧世博社長だ。

 西牧社長は約1年前の2023年4月、予土線のあり方を沿線自治体と協議したい考えを明らかにした。しかし、愛媛、高知の両県は

「廃止の結論ありきの議論なら、協議の場につきようがない」(高知県交通運輸政策課)

と予防線を張り、協議入りのめどが立たないまま時間だけが過ぎている。

 感謝祭では松野町から愛媛県宇和島市へ通学する高校生ふたりが、予土線の存続を願うメッセージを読み上げた。西牧社長は終始にこやかな表情を崩さずに話を聞き、酒だるに木づちを振り下ろしていたが、内心は何を考えていたのだろうか。対策協議会の事務局を務める松野町ふるさと創生課は

「存続を願う住民の気持ちが伝わったはず」

と振り返る。

 予土線は清流の四万十川沿いや四国西部の山あいを走り、宇和島市の北宇和島駅と高知県四万十町の若井駅間を結ぶ76.3km。1km当たりの1日平均輸送人員を示す「輸送密度」は、旧国鉄が民営化された1987(昭和62)年度に676人だったが、2023年度に150人(78%減)まで落ち込んだ。

 100円の収入を得るために必要な費用を表す営業係数は2022年度で1718円、営業損失は

「10.2億円」

に上った。営業係数はJR四国の路線で最も厳しい。

JR四国のウェブサイト(画像:JR四国)

牟岐線、予讃線も協議入り遠く

 西牧社長が将来のあり方を議論したいとしたのは、予土線全線のほか、

・予讃線海回り区間の向井原〜伊予大洲間(愛媛県)
・牟岐(むぎ)線の阿南〜牟岐間
・牟岐〜阿波海南間(徳島県)

の3路線4区間。2023年度の輸送密度は

・向井原〜伊予大洲間:321人
・阿南〜牟岐間:427人
・牟岐〜阿波海南間:153人

と国の有識者会議が存廃論議の対象とした1000人を下回る。

 JR四国は1987年の民営化以来、本業の鉄道事業で一度も

「黒字を達成した」

ことがない。2023年度決算は純損益が35億円の黒字に転じたが、国からの支援で赤字を埋めたからにすぎない。鉄道事業の営業損失は139億円。本四備讃(びさん)線を除く8路線が赤字と見られ、運行する9路線全体の輸送密度は1989(平成元)年度の55%まで落ちている。

 ホテルやマンション、小売り事業など本業以外の収益に活路を見い出そうとしているが、人口が少ない四国で鉄道事業の赤字をカバーするのは難しい。2023年度決算で本業以外の営業利益は26億円にとどまっている。赤字路線を一部廃止するか、上下分離方式の導入などで自治体の支援を受けたいのが本音だろう。

 JR四国は2020年、経営自立計画を達成できず、国土交通相から行政指導を受けた。その際、地域と一体となって持続的な鉄道網を検討し、2025年度に抜本的解決策を報告するよう求められた。しかし、自治体側は予讃線や牟岐線でも協議入りを拒んでいる。

 愛媛県交通政策室、徳島県交通政策課とも

「利用促進の話し合いは続けるが、存廃協議には応じられない」

と従来の姿勢を崩していない。将来のあり方を協議すれば、存廃論議に踏み込まざるを得ないことを警戒しているからだ。急激な人口減少と高齢化の進行で財政がひっ迫し、上下分離方式導入などの負担を避けたい思いもある。

 2025年度に国へ報告するとしたら、残された時間は多くない。JR四国は

「路線の将来を話し合いたいのだが、状況は動いていない」

と焦りの色を濃くしている。

牟岐駅で出発を待つ牟岐線の車両(画像:高田泰)

行き着く先は再構築協議会か

 岡山県と広島県を結ぶJR芸備線では、3月から全国初となる改正地域交通法に基づく再構築協議会が始まった。存廃協議の対象区間は岡山県新見市の備中神代(こうじろ)から広島県庄原市の備後庄原までの68.5km。しかし、初会合から路線を維持したい自治体側と維持できないとするJR西日本の主張が対立した。

 JR四国は芸備線の協議の行方を注視しつつも、以前から

「再構築協議会に飛びつくことはない」

とし、沿線自治体との決定的な対立を避けようとしている。だが、これまでの利用促進策に限界があり、3路線を単独で維持することが困難という思いも抱えている。このまま膠着(こうちゃく)状態が続けば、行き着く先は再構築協議会しかない。

 これに対し、四国の自治体は再構築協議会自体に疑念を持つ。行司役を務めることになっている国がどのような判断を示すのか、明らかになっていないためだ。四国でも旧国鉄末期に徳島県の小松島線が切り捨てられた記憶が残り、不安がぬぐえていない。

 国が行司役を務めることにも批判がある。国鉄を分割民営化して採算が合うはずのないJR四国を誕生させ、経営安定基金の運用益で赤字補てんする枠組みを作ったのは国だ。牟岐線の沿線自治体は

「低金利時代になって経営の枠組みが崩れたのだから、国が新たな方策を打ち出すべき。第三者のように振る舞うのはおかしい」

と首をひねる。

 沿線には通学の高校生や通院の高齢者ら鉄道を必要とする人がいるが、急加速する人口減少で自治体が存続できない可能性も出てきた。このままにらみ合いを続けていたのでは、苦境を抜け出せない。国は全国の鉄道ネットワークをどうしていくのか、はっきりと示す必要がある。JR四国と沿線自治体も

「負担と責任の押し付け合い」

を続けている場合ではない。