甘草は医療用漢方製剤の原料となる生薬の中でも、最も多く使われている。日本漢方生薬製剤協会(日漢協)の調査によると、2020年度の国内の生薬の総使用量(305品目)は約2.8万トンだが、そのうち約7%に当たる約2019トンが甘草となっている。

漢方薬メーカー最大手のツムラが販売する129品目の医療用漢方製剤のうち、約7割に当たる94品目で甘草が使用されているという。代表的な製品は、風邪のひき始めなどに処方される葛根湯だ。

甘草の効能としては、抗炎症作用や抗アレルギー作用、解毒作用、鎮痛作用、去痰作用などが知られている。

ほぼ100%を中国からの輸入に依存

だが生薬の多くが中国産で、日本産の比率は小さい。生薬全体では8割が中国産で、甘草についてはほぼ100%を中国産に依存している。日漢協によると、日本産の甘草が使用されたのは2019年度の68キロ、2020年度の122キロとごく少量で、それ以前に日本産が活用された調査結果はないという。

甘草は中国を中心に、パキスタンやアフガニスタンなど中央アジアで自生している野生種が広く使われている。ただ甘草の需要増加に伴う資源枯渇や、中国による輸出規制など政治的な要因で、国内で安定的に入手できる体制が求められていた。

王子HDが甘草栽培に踏み切った背景には、こうした見通しに加えて、国内外に民間企業として最大の約60万ヘクタールもの社有林を持ち、優良品種の選抜や育種など、製紙会社として長年にわたり蓄積された技術やノウハウを、甘草栽培にも十分に生かせるのではないかという算段もあった。

ただ、経験のない甘草栽培はそう簡単ではなかった

「苗の作り方から植え方、収穫の時期、肥料の選定など、何から何まで手探りでした」――。

王子薬用植物研究所の事業本部生産部長の佐藤茂氏は、同研究所がある北海道上川郡下川町や名寄市の農場で、2人の研究員とともに甘草栽培に取り組み始めた当時を振り返ってこう語る。