吉田さんによると、最初にかかった医療費は、検査や手術、入院の費用に食事代やレンタル品などすべて込みで約120万円。「このままでは生活が成り立たないのではないかと、愕然となりました」。

幸い吉田さんの場合は、公的な支援制度である高額療養費制度を利用し、支払額を18万円ほどに抑えられた。ほかにも、加入していた民間のがん保険で、診断一時金などが下りたため、お金に困ることなく治療を受けることができた。

保険会社に提出が必要な書類や主治医に記載を依頼する書類などに関するアドバイスは、がん保険の外交員に教えてもらったという。

吉田さんはこうした自身の経験を、がんと診断された人に役立てたいと、がんサバイバーの仲間とともに一般社団法人「がんと働く応援団」を立ち上げ、『がん防災マニュアル』という冊子を作って、希望する人たちに配布している。

経済的な理由で「治療拒否」も

日本には国民皆保険という制度があり、ほかにも医療費の負担を軽減する公的制度があるので、海外のように貧困が理由で治療を受けられないことは、原則ない。

だが、医療費の支出が抑えられたとしても、がんによる退職などの理由で収入が減った状態では、大きな負担になることもある。

医師の本多さん(前出)は、がんの医療費やそのほかにかかる費用の負担、退職などによる収入の減少など、がんが患者・家族の経済面・生活面にもたらす影響をひとまとめにして、がんの「経済毒性」と呼んでいる。

本多さんは2021年10月〜2022年2月、医師、看護師、医療事務職などの医療従事者に対して経済毒性に関するアンケート調査を行った。

医師500人のうち85%が、勧めた治療や検査を患者側の経済的理由で行わなかったり、延期したりした経験(「抗がん剤の投与を経済的な負担で延期した」「処方箋を発行したものの、患者が薬局で薬を受け取らなかった」といった経験)があると答えた。

「抗がん剤も使い方が決まっていて、毎日服用するものもあれば、2週間に1回とか、3週間に1回といったように決められた間隔で点滴をするものもあります。経済的な理由であれ、治療をスキップすることで効果が落ちれば、それだけ患者さんの不利益につながります」と本多さん。

一定額を超えた医療費が払い戻される高額療養費制度など、公的な制度を活用して、必要な治療を続けられるようにすることが重要だという。

※がん治療に伴うお金の問題を取材した「がんとお金」を3日間にわたってお届けします。今回は1回目です。
2回目:高額化するがん治療「高額療養費」でいくら戻る?
​3回目:「がん診断で退職」待つのは"収入無"の新たな問題

著者:佐賀 健