自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る報道では、「政治資金は非課税」という原則をたびたび目にする。でも、そもそも政治家の活動費用はなぜ課税対象にならないのか。毎年収支を厳しくチェックされる納税者の中には、納得がいかないという人も多いだろう。 
 多くの議員が使途を明らかにしないのに「政治活動に使った」と主張しており、国民の不満が高まっている。市民団体「自民党ウラガネ・脱税を許さない会」は3月、還流金に課税するよう求める申し入れ書を国税庁に提出した。
  「特権」とも言える扱いは、なぜ許されているのだろうか。長く税の現場に携わり、熊本国税局長などを歴任した亜細亜大の肥後治樹教授に見解を聞いた。(共同通信=助川尭史)

 ▽「政治活動」は課税対象外、明確な定義なし

―なぜ政治家の活動資金には課税されないのですか。
 「そもそも税金とは、社会を維持する公共サービスを提供するのに必要な資金です。その徴収と配分を決める政治には、高い公益性があります。議員の活動は結局、政治の結果として社会に還元されるので、その費用に課税するよりも全て直接社会のために使ってもらおう、という発想で非課税になっているのです。裏を返せば、政治に関係のないことに使ったと認定されれば、『雑所得』として税金が発生します」
 ―裏金を受け取っていた自民党議員の多くは、自身が代表を務める政治団体の政治資金収支報告書に収入として記載していませんでした。当然、何に使ったかも書いていません。課税対象とする必要はないでしょうか。
 「課税の可否と、政治資金収支報告書に収支が記載されていたかどうかは関係がなく、冷静な検討が必要です。たとえ収支報告書に記載がなかったとしても、実態として政治活動に使われていたのであれば課税対象にはなりません」
 ―では、そもそもどのような行為が「政治活動」に当たるのでしょうか。 
 「政治家に限らず、経費と私的な消費の線引きは難しい問題です。例えばグルメユーチューバーが『動画制作のためにミシュラン三つ星のシェフのレストランで食事をしました』と言えば、経費性が認められますよね。政治家にとっては国民の声を広く聞くのも大切な仕事です。政治活動に明確な定義はありません。友人との食事でも『政策について意見を聞きたかった』と主張されれば、業務と全く関係ないと言い切るのにはハードルがあると思います」 

 ▽世論受けた恣意的調査には危うさも
 ―使い道を調べるために税務調査をするべきではないでしょうか。  

 「国税当局の人員にも限りがあり、全てを調査するのは現実的ではないと思います。もちろん、議員も税務調査の対象外ではありません。過去の税務申告分とも照らし合わせて、国税庁が調査の要否を検討するのだと思います。ただ今回のケースでは、脱税事件として問える帳簿の改ざんなどの悪質な行為は明らかになっていません。仮に裏金が議員個人の所得と判断され、その分の申告がなかったとしても、まずは修正申告を促す対応にとどまるのではないでしょうか」 
 ―膨大な経理書類を集めて毎年税務申告をしている人もたくさんいます。納得いかないという意見も多いと思います。 
 「自民党への不満が高まる中、議員に課税すべきだという声が上がるのは理解できます。ただ悪質で大口の税逃れは他にもあり、議員を対象とするパフォーマンス的な税務調査はあまり生産的ではありません。議員の後ろには、その議員を選んだ何万人という国民がいます。行政が世論によって恣意的に調査をすることができてしまえば、気に入らない相手に社会的なダメージを負わせることが可能になってしまいます。権力が暴走する危うさを国民が理解する必要もあるかと思います」
 

 ―説明責任を果たさず、十分な処分も受けないまま幕引きを図ろうとする政治家に対してどう怒りをぶつけたらいいのでしょうか。「過度に懲悪的な役割を国税に期待するのはあまり意味のないことだと思います。国税当局はあくまで提出された申告書に基づいて、悪質な税逃れがあれば調査をして課税をする組織です。『悪い政治家を許さない』という民意は選挙を通して示すべきではないでしょうか」

 ひご・はるき 1959年鹿児島市生まれ。税務大学校副校長、熊本国税局長などを経て現職。
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 安倍派の事務総長を務めた松野博一前官房長官は3月の衆院政治倫理審査会で、還流金を「国会議員や有識者との会合の費用に充てた」と説明したが、「参加者のプライバシーの問題もある」との理由で会合の相手は明らかにしなかった。一方、塩谷立元文部科学相は野党議員に納税するよう迫られたが「しっかり政治活動に使用している。納税するつもりはない」と拒否。岸田文雄首相も国会で「個人が受領した事実は確認していない」と答弁し、納税義務は生じないとの見解を示している。