男女の間で友情は成立するか。昔から言われてきたことではあるが、これは人それぞれに考え方が違う。ただ、「元カレと友だちになるなら、それは楽しいかも」という声も少なくない。

付き合っていた相手なら、単なる友だちとは違う。かといって今さら恋人に戻るつもりもふたりともない。それならいい関係が築けそうだ。大人ならではのそんな友情を育てることができるのは、40代以降かもしれない。

■子どもの手が少し離れてきた頃に連絡が……
「2年くらい前かな。SNSで『間違っていたらごめんなさい。これは○○ユリさんのSNSでしょうか』と旧姓を出しながら連絡をくれた人がいたんです。なんと20代前半から半ばにかけて大恋愛したタケシでした」

ユリさん(48歳)には、現在、大学生と高校生の子どもたちがいる。28歳のとき、職場恋愛で結婚、同い年の夫と共働きで頑張ってきた。家族との仲は「淡々と良好」だという。それぞれが「個」を大事にすることを意識してきたようだ。

「夫とは家族を作ることを意識した上で結婚しました。この人となら、ちゃんと話し合って家庭を作っていけるなと。その通り、夫は本当にいい人だし、小さいことでも話し合える。穏やかでいられます」

20代のころ“大恋愛”したタケシさんは、そういうタイプではなかった。彼に振り回され、泣かされ、それでも愛し愛され、すべての情熱を傾けた人だった。だが結局、ユリさんは心身ともに疲れ果てて、自ら恋愛の舞台を降りた。

「そんな相手から連絡があったので懐かしかったですね。タケシは相変わらずで『ユリに会いたい』と。多分、お互いに恋愛感情はいっさいないとわかっていたから、すんなり会おうと思ったんでしょう」

■過去に大恋愛した相手と再会した
実際に会ってみると、あの頃が一気に蘇った。タケシさんは相変わらず魅力的だったし、やんちゃな面も残っていた。現在は離婚して息子とふたり暮らしなのだという。

「『親同士は破綻しちゃったんだけど、近所に住む前妻とはしょっちゅう会ってる。息子はちゃんとふたりで育てようと思ったから。オレにも今、恋人がいるしね』って。相変わらずだなあと思ったけど、それからときどき彼には会うようになりました」

仕事や職場の人間関係を愚痴ることもあれば、子どもの話をすることもある。彼に会うと、なぜか元気が出るとユリさんは言う。

■元彼とのことを夫には秘密にする理由
タケシさんとのことをユリさんは夫に話していない。

「話してもいいし紹介してもいいんだけど、夫の心が微妙に揺れたら嫌だなと思って。秘密というほどのことでもないんですけど、私の友人関係をすべて夫に話す必要もないというだけのことです」

やましい気持ちがあるから隠しているわけではない。それは本当なのだろう。ただ、邪推や嫉妬が夫の心に芽生えたら困る。それだけのことだとユリさんは強調した。

「タケシに対して恋愛感情はありません。ただ、恋愛感情の残滓みたいなものはある。それでお互いに優しく寛容になれるんだと思う。タケシが言ったんですよ。『ユリが本当に困ったとき、オレ、絶対に駆けつけるから』と。私も彼に対して同じような思いがあります」

昔の恋人だから、単なる男友だちとは違う。恋愛感情の残滓に火がつくことはないとわかっているが、自分の心の中でその残滓を愛おしがることはできる。それが優しさを生むとユリさんは微笑んだ。

「色っぽい関係になろうと思えばなれるんだろうけど、なったところで何も生まれない。もう終わった関係ですから。だったら友情を育てていったほうがおもしろい。私が30代だったら焼けぼっくいに火がつくこともあるのかもしれないけど、今はそれより大事な関係があるような気がします」

■人とのつながりは広く深くオープンに
タケシさんの息子は現在、中学生。反抗期で困っていると聞いたとき、ユリさんは自らの体験を話した。お互いにそうやって「親」として助け合うこともできる。

「職場の先輩が以前、40代後半になってから、かつての恋人たちが友人として戻ってきたと言っていたことがあるんです。なにげに自慢しているのかなと思っていたけど、こういうことだったんだなとわかるようになりました。もともとの男友だち、元カレの男友だち、みんな友だちでいいじゃない。今はそんな感じです」

夫の元カノと会ってみたいと思うが、夫はそれほどオープンな性格ではないので、様子を見ながら検討したいとユリさんは笑った。

人とのつながりは広く深くオープンであるほど楽しい。それに気づくことができるのは、40代後半、自らも人生経験を積んでからなのかもしれない。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

亀山 早苗(フリーライター)