ディズニープラスが日本アニメの配信を始めて2年が経過した。当時は、ディズニーのブランド名を冠したサービスで日本のアニメ作品が配信されるということに世間は驚いた。しかも、当初から独占配信作品なども揃え、本気で日本アニメをやろうという意気込みが感じられた。
この2年、ディズニープラスの日本のアニメーション責任者である八幡拓人氏は何を感じていたのか。世界に拡大し続ける日本アニメの人気を牽引する配信業者の一角として、これからの日本アニメに同社はどんな貢献をするのか、そして、2024年の期待の作品など多岐にわたる話を八幡氏に聞いた。
【八幡拓人プロフィール】
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社アニメーション責任者。エイベックス・ピクチャーズ株式会社、ワーナー ブラザース ジャパン合同会社でアニメ作品の宣伝、企画プロデューサーなどの経験を経て、2021年9月にウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社に入社。ディズニープラスではオリジナル コンテンツ部門内のアニメ作品制作を統括している。
■すでに日本アニメはディズニープラスに欠かせない
――アニメ!アニメ!は、八幡さんにディズニープラスの「スター」ブランドが始まる2年前からお話を伺ってきました。この2年間を振り返っていかがでしたか。
八幡:2年前、我々ディズニーは日本のアニメクリエイターの皆さんと同じ船に乗って世界に向かっていきたいとお話しさせていただきましたね。まさにそれが結実しているなと感じています。どんどん拡大していくアニメ産業という大海原の中で、たくさんの仲間と素晴らしい作品を持って順調に出航できたのではと思っています。
――ディズニーがそのブランド名を冠して日本アニメを手掛けることに、当時は驚きを持たれたと思います。実際に2年運営してみて、業界やファンにディズニープラスは定着しているという手ごたえはありますか?
八幡:その実感は確かなものとして感じています。おっしゃる通り最初はみなさん驚いたと思うんですね。ディズニーには100年の伝統があり、そういう会社が日本のアニメという新たな領域に参入してどうなるのかと。
ただ、私も10年以上アニメ業界での経験がありましたし、全く別の文化に属する者ではなかったので、業界でもポジティブに同じ言語を持った人が新しいチャレンジをしているんだと受け止めてもらえました。もちろん、まだ志半ばですが、着実に根を下ろし始めていると実感しています。
ディズニープラスでアニメを視聴する方も着実に増えています。昨今では日本のアニメを観たいからディズニープラスに加入したと言う声を聞けるようになってきて、とてもありがたく思っていますし、すでにディズニープラスにおいて、日本アニメは欠かせないジャンルになっていると言えます。特にZ世代へのエンゲージメントを高めるという点において、日本アニメは非常に期待されているんです。
――Z世代に日本アニメが人気というのは、国内に留まらず、世界的に共通したお話でしょうか。
八幡:おっしゃる通りで、日本のファンと海外のファンには究極大きな違いはなくて、楽しみ方は国を選ばないようになってきています。これは、この10年ほどの大きな変化だと私は思っていて、少し前までは、この作品は日本向けで、これは北米の人が好きそうだね、みたいなことがありました。でも、今は本当にそういう風には考えられなくなってきていますので、我々送り手も、ターゲットの特定をしないようになっていますね。盛り上がるタイミングにしても、日本と海外の違いはほぼなくなってきたなと最近はよく感じます。
――先日開催されたAnime Japan2024も、海外からの参加者が増えていましたね。ディズニープラスも大きなブースを出されていたので実感されたのではないでしょうか。
八幡:そうですね。Anime Japanは昨年10周年を迎え、私もずっと連続で参加していますけど、今年は特に海外から来られた方が多かったなと感じました。そこである変化を感じました。これまでの海外のアニメファンの方々は来日しても単独で楽しむ大人が多いイメージでしたが、今年は家族連れでブースに来る人が非常に多かったんです。印象に残ったのは、海外から来られた小さな子どもを連れた家族が『SAND LAND: THE SERIES』のベルゼブブの前で記念撮影していたんです。それを見て、これまでニッチだった日本アニメに新しい波が来ている、メインストリームのエンターテインメントになりつつあるなって実感しましたね。
――親子連れで来ているということは、2世代コンテンツ化してきているということかもしれないですね。子どもだけでなく両親世代もアニメを見ているという。
八幡:おそらくそうだと思うんです。SNS上での反響でも子どもと一緒に観たいと言われるのは我々にとっては非常に嬉しいことですし、楽しみ方は人それぞれですが、普遍的で誰もが楽しめる作品作りを目指していますから、家族みんなで観てもらえるというのは、非常に大きなことだと思っています。
■「劇場から配信へ」という新チャレンジ
――『SAND LAND: THE SERIES』の話が出ましたのでお聞きしたいのですが、この作品は昨年夏に映画『SAND LAND(サンドランド)』が劇場公開され、その続きをディズニープラスで配信するという新たな試みをしています。「映画公開から独占配信へ」という事例は今後も増えていくのでしょうか? 例えば、『コードギアス 奪還のロゼ』もまず劇場公開が先になるようですが。
八幡:「映画から配信へ」という戦略を、今後全ての作品でやりたいということではありません。我々としてはパートナーの企業さまと協力して、常に最適な形で作品をお届けしたいと思っています。そのためには、作品ごとにどんなやり方が一番いいのか模索し、どう一緒に盛り上げていくかを考えていきたい。その試みの一つとして、『SAND LAND』はまず映画で公開され、ディズニープラスで配信するという形となりました。
ディズニーは常に最高のストーリーテリングを目指しています。そして、普遍的な魅力を持つもの、時代も国も選ばない作品を世界中にお届けしたい。『SAND LAND』の原作は20年以上前の作品ですが、いまも色褪せない魅力がありますし、『コードギアス』も18年前に始まったシリーズながら今なお、ファンを熱狂させています。今後もそういう作品を最適な形で送り出していきたいと思っています。
――「劇場から配信へ」というやり方もあり得るのではという一つの挑戦なのですね。
八幡:そうですね。2年前にディズニープラスが日本のアニメクリエイターのみなさんと一緒にやっていこうと決めたからには、新しい挑戦もどんどんやっていかないといけません。目まぐるしく変化していく社会の変化にどう寄り添っていくのか、そのためには決まった一つのやり方に固執するのではなく柔軟さも必要になります。パートナーのみなさんと一緒に新しいパターンを模索する姿勢は欠かせないと思います。
『ディズニー ツイステッドワンダーランド 』『Project BULLET/BULLET』(仮)は順調に進行中
――今年のディズニープラスの注目作は、やはりまずは『SAND LAND: THE SERIES』でしょうか。
八幡:『SAND LAND: THE SERIES』もそうですし、さらに4月7日から講談社さまとの戦略的協業の拡大の一環で、『戦隊大失格』と『ザ・ファブル』という作品も配信が始まります。こうした作品は、皆さんに新たな体験をたくさんお届けできると自負しています。
――『SAND LAND』は、鳥山明先生が新登場のキャラクターデザインやエピソードの考案などで関わっておられるんですよね。
八幡:そうですね。鳥山先生の全1巻からなる漫画『SAND LAND』を原作とし、その続きの物語として「フォレストランド」という新しい舞台に行く「天使の勇者編」」という原作者考案の新たな物語も展開しています。
海外ではすでにとても熱烈な評価をいただいています。以前から鳥山先生のファンは世界中にいましたが、鳥山先生原作の新作アニメが観られる機会はそうなかったと思うんです。そういう作品をディズニープラスで配信したことは好意的に受け止めてもらえていると思います。
――その他、『コードギアス 奪還のロゼ』や『マクロス』シリーズの配信も控えていますね。
八幡:そうですね。『コードギアス 奪還のロゼ』は6月下旬から配信開始で、『マクロス』全シリーズの配信も今年から順次スタートします。日本では『マクロス』全シリーズが1つのプラットフォームに揃い、世界でもこれだけ一挙に配信(※)するのは初めてのことなので長期に渡って準備してきましたが、多くの方が驚いたようです。『マクロス』は40年続くシリーズですから、それぞれの作品も素晴らしいですが、全部揃うとより楽しめると思います。実現は大変でしたが、こうした作品に貢献できるのは、グローバルプラットフォームとして我々が存在している大きな意味の一つだと思っています。
※一部日本でのみ配信の作品あり
――どうしても新作の話題が多くなりがちですが、過去の素晴らしい作品を世界に届けるのも大切な役割ですね。
八幡:おっしゃる通りで、日本のアニメは年間に数百本作られていて、まだ出会っていない作品はだれにとってもあるはず。ディズニープラスを通してそうした作品に出会っていただけたら、我々も存在意義を感じられます。日本アニメのマーケットは拡大していますが、過去作も含めて、まだまだ紹介したい作品はたくさんありますので、新作も過去作も含めて日本アニメは成長していけると思っています。
――配信プラットフォームの競争も激しくなってきていると思います。ディズニープラスとしては、競合他社とどう競っていくのでしょうか。
八幡:やはり、パートナー様と日本のアニメ業界全体を盛り上げる存在になるというのは一番大きいことだと思います。他社がやることにあまりとらわれず、全体として盛り上げていきたい。あとは、やはりブレない軸として最高のストーリーテリングを届けるということですね。その中でディズニーのIPである『ディズニー ツイステッドワンダーランド』など、オリジナルアニメの企画も着々と準備を進めていますので、期待してほしいと思います。
――『ツイステ』のアニメを心待ちにしているファンは多いと思います。有名原作やフランチャイズものだけでなく、ディズニープラスはオリジナル作品にも力を入れていくのですね。
八幡:そうですね。『呪術廻戦 第1期』『劇場版 呪術廻戦 0』の朴性厚監督が10年構想を温めた完全オリジナルアニメ『Project BULLET/BULLET』(仮)も現在制作中です。まだ詳細は申し上げられないのですが、これは本当に素晴らしい作品になりますよ。こういう作品を提供できることに我々もワクワクしています。続報を期待して待っていてください。
<ディズニープラス配信作品>
『SAND LAND: THE SERIES』
(C)バード・スタジオ/集英社 (C)SAND LAND製作委員会
ディズニープラスで世界独占配信中
『ザ・ファブル』
(C)南勝久・講談社/アニメ「ザ・ファブル」製作委員会
ディズニープラスで全話見放題 世界独占
『戦隊大失格』
(C)春場ねぎ・講談社/「戦隊大失格」製作委員会
ディズニープラスで全話見放題 世界独占
『マクロス』シリーズ
(C)'87 BIGWEST(C)'94 BIGWEST/MPP(C)'94 BIGWEST/M7P©’07 BIGWEST/MFP・M(C)'15 BIGWEST/MDP
ディズニープラスで2024年配信
『コードギアス 奪還のロゼ』
(C)SUNRISE/PROJECT G-ROZE Character Design ©(C)2006-2024 CLAMP・ST
ディズニープラス・八幡拓人にインタビュー 日本アニメ配信から2年で感じた手応えや、挑戦を振り返る ―ディズニープラスにおいて、日本アニメは欠かせない
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