今秋、岡山県倉敷市で開かれる大相撲倉敷巡業を担当する元大関琴欧洲の鳴戸親方(41)が1日、倉敷市役所を訪れた。

 同市での巡業は2019年10月以来5年ぶり。水島緑地福田公園体育館で10月27日に開催される。鳴戸親方は前回に引き続き、日本相撲協会の窓口として先乗りし、会場や宿舎の手配、各方面との折衝にあたる。「今回は初めて日曜に開催する。ぜひ朝稽古を見にきてほしい」と話した。

 親方は初のブルガリア出身力士として02年九州場所で初土俵。202センチの上背をいかし、06年に欧州出身初の大関に。序ノ口から所要19場所での昇進は史上最速だった。08年夏場所では幕内優勝を果たした。日本国籍を取得し、14年に引退。佐渡ケ嶽部屋から独立して鳴戸部屋を興した。部屋初の関取欧勝馬は12日に初日を迎える夏場所に新入幕力士として挑む。

市長表敬を終えた鳴戸親方に相撲担当時代に撮影した古い写真を渡すと「角界のベッカム」と呼ばれた端正な顔がほころんだ。「21年前だよ」。日付は2003年1月6日。「琴欧州」(当時)の名が初めて番付に載った直後だ。

 19歳のカロヤン・ステファノフ・マハリャノフ青年は、丈が足りない浴衣からすねをむき出しにして、稽古見学に来た高校生にちゃんこを出している。佐渡ケ嶽部屋の先代おかみが「稽古よりカロヤンとキクツギがお給仕してるとこを撮っときなさいよ。将来価値が出るわよ」と勧めてくれた。一緒に琴菊次(後の大関琴奨菊)も撮っておけばとその後悔やんだというのは別の話。

 鳴戸親方に入門当時の思い出を聞くと「大変だったことしか覚えてない」と苦笑した。レスリングで五輪を目指して科学的トレーニングを積んできた彼は角界の伝統とのギャップに悩み続け、憂い顔ばかりが思い出される。部屋を持って早々に関取を出せたのは、その経験もいきたのだろう。

 昨秋、和気町で初めて部屋の合宿を張った。今秋もするという。どんな稽古場か、ぜひ見てみたいものだ。(大野宏)